――著書では「社会が求める能力」に追い詰められ疲弊する個人の生きづらさと、個人に能力開発の責任を負わせる社会のありようが描かれています
勅使川原: 近年の能力論は、それが一体何を指しているのか、いまいち分からないところが一番の問題だと思います。「美意識」「センス」「起業家精神」、最近では「折れないメンタルの作り方」とか「運が良いことが最高のコンピテンシー」だとか「機嫌を良くしろ」「いつも笑顔で幸せに」といった言説まで出てきています。何をどう改善していいのかが分からない。自力で改善しがたいものを追い求める社会は危ういのではないか、という問題意識で書きました。
――プロローグは「僕は仕事のできない、能力のないやつですか」という印象的な問いかけの見出しで始まります。著書は勅使川原さん自身の体験もベースになっています
勅使川原: コンサルティング会社に入社した当初、とにかく「お前は仕事ができない」と言われました。入社3カ月当時の全評価項目は5段階中の一番下。自分は概念的な思考は得意ですが、緻密な作業などは詰めが甘く、よく叱られました。
「今すぐ辞めろ」などといった言葉が当時は平気で飛び交っていました。半ば自主的な退社を迫られる先輩もたくさんいました。でも、その人に問題があるとは思えなかった。そういう人って、いい人だったりするんですよね。社内の政治的な根回しが下手なだけで「頭が悪い」と言われて本人は悩んでしまっていたけれど、悩むべきところは本当にそこなのか? と思う権利が私たちにはあると思いました。
――「あいつは仕事ができない、空気が読めない」などといったセリフは、確かにお酒の席などで耳にすることがあるかもしれません
勅使川原: コンサルタントとして働いていると、企業の役員の人たちとお酒を飲みに行くことがあります。そんなとき「あいつは仕事ができない」などと口にする人が確かにいます。社員の一面だけを見て「仕事ができない」「あいつは大したことない」などと、その人の人格や人生までひっくるめて一蹴するのは、とても失礼ですよね。
能力論はきっと分かりやすいのだと思います。そうした発言をする人は、自分は能力があるから出世したんだという前提で話している。自分の成功を能力論で語る人が多いと感じます。そうではなく、仕事の相性と周囲の相性が良かったから導かれてきただけ。役員レベルなど偉い人たちがそこを理解する必要があります。
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