「謝罪会見は正直にしゃべればいい」の誤解 「大丸別荘」前社長の発言を振り返るスピン経済の歩き方(4/5 ページ)

» 2023年03月14日 10時32分 公開
[窪田順生ITmedia]

「マスコミが追い込んだ」の声も

 報道によると、当初、福岡県生活衛生課では、昨年8月の調査で大丸別荘の管理簿の内容や数値などに虚偽の報告があったとして、公衆浴場法第9条に基づいて、2000円以下の罰金を科すことを検討しているという話が出ていた。

 しかし、これにネットやSNSで「こんな悪質なことをして2000円じゃあ甘すぎる」と厳罰を求める声が盛り上がった。スシローの醤油さしをなめた少年を「退学まで追い込まないと気が済まない」と考える人がたくさんいるのと同じだ。

 結果、3月8日に、福岡県は、虚偽の説明をしていたとして大丸別荘と、元社長を公衆浴場法に違反した疑いで刑事告発したと発表した。多くの善良な日本人が望むように、元社長は「罪人」として法に基づいて処罰されることとなったのだ。

 元社長が亡くなったのはその4日後で、前日には警察の取調べを受けていたという。このような本格的な犯罪者扱いが、元社長が追いつめた可能性はゼロではないだろう。ただ、一部ネットやSNSでは、元社長が亡くなったのはマスコミが追い込んだと言われており、中でも『週刊文春』(3月9日号)を名指しで批判する人もいる。

 というのも、実は同誌は問題発覚後、元社長に取材を申し込んでいた。元社長は文春記者に対して、震える声で「いや怖い怖い。週刊誌は怖いから面会は勘弁して!」と対面での取材を拒否し、どうにか電話インタビューには応じたという。

 このやりとりを紹介したオンライン版の記事『「週刊誌は怖いから面会は勘弁して!」湯の交換年2回で客が体調不良 福岡・老舗旅館社長のトンデモ言い訳』が、元社長が亡くなったという一報があった後、突然削除された。そのため、一部で「自殺に影響を及ぼしたので、後ろめたいことがあるのではないか」と憶測が飛んでいるのだ。

 ただ、これだけで「文春が殺した」はちょっと飛躍がすぎる。

 『週刊文春』記者が元社長を直撃したのは謝罪会見を開く前日、2月27日だ。時期的にも「刑事告発」によって追い込まれたと考えるほうが自然だ。また、県が刑事告発して、県警が動いてから元社長は「非常識な経営者」から「容疑者」に切り替わる。

 地元マスコミの警察担当などもより力を入れて元社長を追いかけ回したはずなので、メディアが追い込んだというのなら、地元のテレビや新聞のほうがはるかにプレッシャーをかけたはずだ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.