「謝罪会見は正直にしゃべればいい」の誤解 「大丸別荘」前社長の発言を振り返るスピン経済の歩き方(3/5 ページ)

» 2023年03月14日 10時32分 公開
[窪田順生ITmedia]

誹謗中傷がネット上にあふれた

 実際、そのようなやりとりがあったとしても、こういう雑な言い方をすると、「ずさん」「いい加減」という感じがさらに強調されてしまうので、「年に2回、旅館を休業して整備をする際に入れ替えていました」くらいにとどめておくほうがベターだ。

 では、このように「自分の思っていることをあまりに素直にしゃべりすぎる謝罪会見」はどうなるのかというと、事態を悪化させる。失言や非常識発言が世間から叩かれるだけではなく、「あいつ、全然反省していないじゃないか、見せしめのために痛い目に合わせろ」というさらなる制裁を望む世論を盛り上げていくのだ。

 つまり、典型的な「やらないほうがよかった謝罪会見」になってしまうのだ。それは以下のようなニュースのタイトルがあふれたことからも分かるだろう。

「湯の入れ換えは盆と正月でいい」「大した菌じゃない」「塩素臭が嫌い」… 旅館社長謝罪会見の一問一答(産経WEST 2月28日)

【無責任】「大した事ない」“お湯替え2回”旅館社長 会見で明らかになった“新事実”(テレビ朝日 2月28日)

 このような見出しがネットやSNSにかけめぐれば当然、世論は「ふざけるな」「なんて無責任な奴だ」という怒りが盛り上がる。元社長への誹謗中傷もネットやSNSにあふれた。

ネット上にさまざまなコメントがあふれた(提供:ゲッティイメージズ)

 ご存じのように今の日本社会は、誰かが何かをやらかしたらみんなでよってたかってボロカスに叩いて、スッキリするのが常識だ。ネットやSNS、そしてワイドショーなどは常に「叩きがいのあるヒール」を探している。元社長は、スシローの醤油さしをペロペロした少年と同じく、「モラルのない衛生観念と非常識さで、日本社会に迷惑をかけている罪人」として誰が叩いても問題ナシという「罪人」になったというわけだ。

 実際、今回もネットやSNSで元社長を社会全体で過度に追い込んでしまったのではないかという意見が出ると、「悪いことをした人間を叩くのは当たり前」「亡くなったのはお気の毒だが自業自得では」という「正義の人」がそれを打ち消した。

 そこには、人間というのは愚かなことをしてしまうものだといった寛容さがない。人間には本音と建前があって、語る言葉だけがすべてではないという想像力もない。「みんな」に迷惑をかけるような輩は、「みんな」でボロカスに叩いて排除することは正しい、日本人におなじみの同調圧力しかない。

 このような「罪人」ムードが高まれば当然、福岡県にも「厳しく処罰せよ」という怒りの声が多く寄せられるので、刑事告発もされていく。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.