「乃が美」と「いきなり!ステーキ」の共通点は何か 両社がハマった沼スピン経済の歩き方(2/5 ページ)

» 2023年03月28日 10時25分 公開
[窪田順生ITmedia]

「乃が美」と「いきなり!ステーキ」の共通点

 実は「乃が美」も「いきなり!ステーキ」も全国47都道府県すべてに出店するということに、並々ならぬ意欲を見せていたという共通点がある。

 例えば、「乃が美」は全国制覇がよほど嬉しかったのか、Webサイトでこのように誇らしげに紹介している。

 『高級「生」食パン専門店『乃が美』は、創業6年8ヶ月で、全国47都道府県制覇、173店舗の出店を達成しました』

全国制覇したことを紹介(出典:乃が美)

 「いきなり!ステーキ」もWebサイトで『「祝!全都道府県出店」秋田県オープン!363号店「秋田東通店」』(18年11月30日)として以下のように祝っている。

 『これにより、いきなり!ステーキは日本全国の都道府県に出店を果たしました。オープンセレモニーにはタイミングよく!ユネスコ無形文化遺産に登録されたばかりの「なまはげ」さんも登場していただき、盛大に行われました!』

「いきなり!ステーキ」もWebサイトで紹介(出典:ペッパーフードサービス)

 このように聞くと、「フランチャイズ展開してるんだから全国制覇を目指して当然だろ」と感じるかもしれないが、贅沢品を扱う店がこれをやってしまうのは自殺行為だと言わざるを得ない。

 「ブランド価値」がただ下がりになってしまうからだ。

 高級食パンもステーキも基本的には庶民には縁遠いものだ。それでも給料日だからとか、たまには贅沢をしたいとかいう思いがあって利用する。普段はスーパーの食パンを買っている人も、手土産などで「乃が美」を利用する。消費者はこれらの贅沢品に「特別感」を求めていると言ってもいい。

 しかし、全国制覇を掲げてあちこちに出店をするようになって、「最近よく見るなあ」「駅前にできるらしいよ」という認識が広がると、この特別感はどんどん薄れていく。

 これがコンビニや牛丼、コメダ珈琲のような日常感のあるチェーン店であれば「便利になっていいね」となるが、高級食パンやステーキの場合、贅沢品なので利便性はそれほど感じない。むしろ、店が乱立するので「ありがたみ」が消えていく。

 つまり、贅沢品が全国制覇を掲げて大量に出店するということは、贅沢品の最大の持ち味である特別感をどんどん弱めてしまう。その結果、「最近よく見かける高い店」というマイナスのブランディングをしてしまうことになるのだ。

 「乃が美」と「いきなり!ステーキ」はまさしくこの悪循環に陥ってしまっているのだ。

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