ペンギン池騒動と職場セクハラの共通項 笑いと非難の境界線はどこに働き方の見取り図(4/4 ページ)

» 2023年04月07日 05時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]
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 そんな緩い感覚に長く慣れ親しみ染みついている人たちにとっては、いまの職場やテレビ番組における節度への期待と野暮の境界線の範囲はとても狭く映り窮屈なはずです。ペンギン池騒動についても「この程度で非難する世の中の方がおかしい」ということになるのだと思います。

「窮屈な世の中」だと嘆くのではなく

 ただ、忘れてはならないのは、かつて期待と野暮の境界線がもっと緩くて受け入れられていた時代であっても、誰かの不幸が連想されてしまうと素直に笑えなくなるのは同じだということです。もし、お笑いタレントが熱湯風呂で本当にヤケドしたならば笑えるはずがありません。

 性的マイノリティを揶揄するようなキャラクターがゴールデンタイムのバラエティー番組に登場していた時代があったのは、当時の社会が寛容だったということではなく、性的マイノリティの人たちの気持ちを想像する力が社会全体で欠如していたからだと認識する必要があります。そんな人々の想像力の欠如による犠牲者は、後の時代から見たとき、いまの時代にもきっと存在しているはずです。

 時代の流れとともに、社会はより多方面への配慮に敏感になってきています。それは、過去の感覚からすると窮屈で息苦しくなっているということかもしれません。「この程度の行為をイチイチ非難していては、テレビがつまらなくなる」「これくらいのこと、昔はハラスメントなどと言わず笑って受け流していたもんだ」と嘆く声は、いまもあちこちで聞かれます。

画像はイメージ(提供:ゲッティイメージズ)

 しかしながら、そんな息苦しい時代においても、職場で節度をわきまえて見事に振る舞ったり、冗談を言って場を和ませたりしている社員はいます。テレビ番組の中でも、爆笑をとり続けているお笑いタレントたちはいます。そんな適応力の有無は、必ずしも年齢の高さで一律に線引きされるものではありません。年配管理職であってもベテランのお笑いタレントであっても、いまの時代に第一線で活躍し続けている人は、いち早く変化の機微をくんで適応しています。

 期待と野暮の境界線は、その場、その時代ごとに異なり変化します。いまは時代の変化に加え、多様性を受け入れようとする流れも同時並行で進み、変化の幅はこれまで以上に広く複雑です。そんな変化についていけず抗い続ける人と、変化をいち早く察知して適応し、新たなチャンスを見出していく人の間の“適応力格差”は、今後さらに広がっていくことになるのではないでしょうか。

著者プロフィール:川上敬太郎(かわかみ・けいたろう)

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ワークスタイル研究家。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総合研究所』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する“働く主婦・主夫層”の声のべ4万人以上を調査したレポートは200本を超える。NHK「あさイチ」他メディア出演多数。

現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構株式会社 非常勤監査役、JCAST会社ウォッチ解説者の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。


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