ChatGPT「フル活用」仕事術 「寝ているだけで記事作成」はできるのか古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/3 ページ)

» 2023年04月28日 07時30分 公開
[古田拓也ITmedia]

 ITツール比較サイトを運営するSheepDogの調査によれば、30代男性正社員の52%が、1日のうち2時間以上(一般的な1日の労働時間の4分の1以上)を単純作業に充てているという。転職サイトdodaの調査によれば、30歳の平均年収は407万円であることから、単純計算で1人あたり年間50万〜100万円程度がAI置き換えも可能な単純作業に掛けられていることになるだろう。

photo SheepDog調査を引用し筆者作成

 特別なスキルや専門性がなくとも、作成や調査が可能なタスクをChatGPTに任せることで、人間のもつ専門スキルや独自視点の検証といったクリエイティブな業務領域に時間を割けるようになる。

 上記に挙げた例の他にも、社内文書やメールにおけるあいさつ文言のような重要度の低い文章は出力結果を多少手直しするだけで活用できる。専門性やファクトの重要度が高いコンテンツでも、その結果に責任が取れるだけの知識・経験のある人材に監修してもらうことで、公開するコンテンツをChatGPTに作ってもらうことも不可能ではない(現にコロンビアでは裁判官が規則に従ってChatGPTを活用した例が話題になっている)。

 このように、AIの登場は「パワードスーツ」や「有能な助手」といった人間の業務を補完するような役割を担うことになるだろう。つまり、AIはビジネスパーソンを「淘汰」するのではなく、AIから目をそらさないビジネスパーソンと「共存」していく道を歩んでいきそうだ。

「ステルス失業」や「情報流出」のリスクは大きい

 しかしながら、ChatGPTの普及に伴い、雇用や法的リスク、倫理面といったさまざまな“副作用”も懸念される。

 最も象徴的な言説は「人間の職がAIに取って代わられることで、雇用が失われる」というものだが、筆者としてもそのような実感は大きいといわざるを得ない。当社の例でいえば、これまでにクラウドソーシングでお願いしていたリサーチ業務や資料化業務における半分以上の工数が、ChatGPTで置き換え可能になった。その上、データの入力速度も人間より速いペースで実現することが可能になった。

 このことは、解雇規制の厳しい日本においては独自の「二極化リスク」となるだろう。職位によって「AIの恩恵を受ける層」と「AIに仕事を奪われる層」に大別されてしまうリスクだ。

 つまり、解雇されにくい正社員はAIに単純作業をソーシングすることで、より専門的かつクリエイティブなタスクに集中でき、キャリアアップを目指せる。一方で、各企業における将来の正社員採用数が絞られたり、フリーランサーの受注量が徐々に減少したりすることが懸念される。「気が付けば自身がつけたはずのイスがなくなっていた」というような、いわば「ステルス失業・ステルス失注」現象が発生する危険性があるのだ。

 AIに関する第2の懸念は、AIが個人情報や機密情報にアクセスする機会が増えることによる、セキュリティ問題だ。ChatGPTを利用する企業は、顧客データや業務上の機密情報を適切に保護するための対策が不可欠である。

 顧客の個人情報や営業上の秘密、未公開の新技術に関する情報をChatGPTや外部のツールに入力することは、秘密保持契約や就業規則、個人情報保護法といった、さまざまな法規に抵触する危険性が高く、最悪のケースでは検挙されるような事態にも発展しかねない。

 従って、AIツールを使いこなすにあたっては情報リテラシーやコンプライアンスについて社内で適切な研修を行い、情報流出や契約違反などの責任に問われるリスクを最小化しなければならないだろう。

 最後に、ChatGPTの導入により、企業間の競争力格差が拡大する懸念もある。AIをうまく活用できる企業は、効率化やコスト削減に成功し、競争優位を築くことができる一方で、AIの導入に遅れる企業は市場での立ち位置が弱まる恐れがある。企業は、AI技術の習得や社内教育、活用を怠らず、柔軟な経営戦略を立てることが求められてきそうだ。

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