この記事は、Yahoo!ニュース個人に5月11日に掲載された「トップの困った性的行動は改善可能か 元ジャニーズJr.岡本カウアン氏の性被害告発から考える」に、編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。
元ジャニーズJr.の歌手カウアン・オカモトさん(26歳、当時は岡本カウアン名)が、日本外国特派員協会でジャニー喜多川氏(2019年87歳で死去)からの性被害について告発記者会見(4月12日)を開いてから1か月。
彼の目的は優越的立場を利用した組織トップによる未成年者への性行為を知っていて報じてこなかった日本のマスメディアが報道せざるを得ない状況に追い込むこと。一方、組織リスクマネジメントの観点からすると、トップの性的行動とそれがもたらすリスクをどうコントロールしていくのか、考える題材となります。
「死去した人の告発を今更なぜ? 売名行為ではないか」といった声もありますが、過去だからこそ冷静に検証し、業界や企業、マスメディアの役割について教訓とする必要があるのではないでしょうか。
カウアンさんが冒頭語った内容は簡潔にまとめられていました。カウアンさんが中学3年生だった2012年2月にジャニーズ事務所に入り、2016年に辞めるまでの間、100回以上ジャニー喜多川氏のマンションに泊まり、15から20回ほど性被害を受けたこと、被害は彼だけではなく、彼が所属していた4年間だけで100〜200人がマンションで寝泊まりし、同じ行為をされていたと証言。冒頭の後半に目的と自分の気持ち。
今回、週刊文春の取材を受け、「日本のメディアは残念ながらこの問題について極めて報じにくい状況にある。BBCが報じたように外国のメディアなら取り上げてくれるのでは」と言われ、この記者会見を受けることになりました。
現在、僕は日本と両親の出身地であるブラジルでミュージシャンとして活動しています。ジャニーさんには個人的には感謝の気持ちを今も持っています。ジャニーさんのおかげで人生が変わったし、僕のエンターテインメントの世界はジャニーさんが育ててくれたものだと思っているからです。一方でジャニーさんが当時15歳の僕や、そのほかのジュニアに対して性的行為を行ったことは悪いことだと思います。
事務所に入ったきっかけと経緯、時期(数字)、具体的な行為、会見目的、現在の気持ちに加え、マンション画像(ビジュアル素材)まであり、綿密に練った構成です。文章は約2000文字でまとめられ、聞かれそうなことを全て盛り込んであります。顔出しで記者会見をすれば、「会見をした事実」を報じざるを得ないはず、といった強い意志が見られました。文書の読み上げ方は冷静で悪くはないのですが、やや感情を抑えすぎていたように思います。戸惑い、複雑な思い、メディアへの強い怒りといった感情をストレートに出した方が共感を得られたでしょう。
クライシスコミュニケーションには、表現、手法、タイミングの3側面での綿密な戦略が必要になります。数字を組み合わせた客観的事実を盛り込んだ表現、記者会見というインパクトのある手法を選択し、BBCでのリーク報道後の会見設定という組み合わせ方にはプロの介入を感じさせます。
それだけではありません。3月14日には性犯罪の実態に合わせた刑法改正案が閣議決定されています。改正により、「強制性交罪」が「不同意性交罪」に、「強制わいせつ罪」は「不同意わいせつ罪」に変更され、被害者が「同意しない意思」を表すことが難しい場合を具体的に8つ示しました。暴力や脅迫、心身の障害、アルコール、睡眠や意識不明瞭、不意打ち、恐怖驚愕、虐待、経済的・社会的地位の利用。「不同意」という表現や具体的記述でわかりやすくなった刑法改正の時期に合わせて世論形成を図った可能性があります。
1点気が回らなかった点としては、カウアンさんに蝶ネクタイで会見場に出させてしまったこと。告発会見でなぜ夜会パーティー用の蝶ネクタイなのでしょうか。違和感を持たせてしまう服装だったのは残念。
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