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「3割退職・目標未達・売上前年割れ」 退職者が出戻るほど成果が出た、データドリブンな営業改革とは脱・属人的な営業(1/4 ページ)

» 2023年06月12日 08時00分 公開
[吉見朋子ITmedia]

 企業向けソフトウェアサービスを開発・販売するウイングアーク1st(以下、ウイングアーク)は2010年代初頭、「営業目標未達成」「売り上げ前年割れ」「営業人員の3割退職」という三重苦にあえいでいた。

 その原因は、営業をリードしてきた創業社長が事業拡大とともに現場から離れていったことにある。危機感を募らせた同社は、それまでの属人的な「昭和スタイルの営業」を改め、組織的な「データドリブンな営業」へ脱皮することを決断した。

 徹底したデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進した結果、約10年で同社は売り上げを約2倍に伸ばすことに成功したという。14年から営業DXをけん引してきた同社マーケティング本部長の久我温紀氏に、その舞台裏について取材した。

マーケティング本部長の久我温紀氏(画像:ウイングアーク1st提供)

三重苦に陥った要因は「営業の属人化」

 ウイングアークの代表的な事業は帳票基盤「SVF」のほか、近年はBIツールの「MotionBoard」などの企業向けソリューションだ。

同社が提供する「SVF」(画像:ウイングアーク1st公式Webサイトより)

 もともとシステム会社の一事業部からスタートした同社は、創業者で現会長の内野弘幸氏の強いリーダーシップのもと急成長した。04年になると「ウイングアーク テクノロジーズ」として独立、14年にはグループ会社を統合して正式に「ウイングアーク1st」として設立した。

 だが、組織の拡大にともない、ウイングアークは壁にぶつかることになる。それは「何がなんでも目標を達成する」と営業チームを鼓舞してきた内野氏が、社長業に専念することとなったためだ。転換期を迎えた営業チームは、考え方の変革が求められていたと久我氏は振り返る。

 「それまでの営業は非常に属人的なものでした。ノウハウやナレッジの共有もなく、営業間では『個人商店』と言い合っていたくらいです」

 カリスマを失った営業チームは先行きの見えない状態に不安を覚え、次から次に辞めていった。ひどい時はピーク時に比べて3割の営業が退職したという。ちょうどクラウド市場が勃興し始めた頃にもかかわらず、3年ほど売り上げ低迷期が続いた。

 危機感を募らせた経営陣は、当時ホールディングスで事業戦略を担当していた久我氏に白羽の矢を立てた。元営業である久我氏は「データをもとに営業効率を高められないか」と、自らデータベース管理システムなどを使って営業DXの試行錯誤を繰り返していたからだ。

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