「前例のない」JASRACの“小さなDX”がもたらした、大きな副産物理事長に聞く(2/4 ページ)

» 2023年06月12日 07時00分 公開
[小林泰平ITmedia]

伊澤 手続きが複雑で難しく、個人が創作活動をしながら行うのはハードルが高い、というのが一つ。通常はクリエイターが所属する音楽事務所などが担っていますから。もう一つの理由として、音楽配信から得られる収益とは別に、著作権管理団体を通じて著作権使用料の分配を得られる仕組みが知られていない、ということもあります。

 こういった状況を見る中で、私たちもこれまで通りの著作権管理を行うだけでは足りないと感じました。JASRAC の使命は、クリエイターに適切な対価還元を行い、創造のサイクルを育むことです。今の複雑化した時代に合った、新しい著作権管理を考えなければいけません。

小林 その中で生まれたのが「KENDRIX」ということですが、どんなプラットフォームなのか、簡単にご説明いただけますか。

伊澤 「KENDRIX」はプロアマ問わず、全てのクリエイターが参加できるプラットフォームです。アーティストが楽曲の音源データをKENDRIXにアップロードすると、裏で楽曲のダイジェスト情報がブロックチェーンに保存されるとともに、「誰がいつ、その楽曲ファイルを保有していたか」を証明する「存在証明ページ」を発行します。

 また、KENDRIXからJASRACとの信託契約を結ぶこともでき、楽曲の著作権使用料を受け取れるようになります。信託契約はこれまで書類手続きだったのですが、ネット完結のeKYCでできるようにしました。

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前例のないスモールスタートが作り出した、DX推進の機運

小林 いつ頃からKENDRIXの仕組みを考え始めたのでしょうか。

伊澤 いくつかの流れが交錯して開発に至りました。まず2017年ごろ、ブロックチェーンの技術が注目を集めました。著作権管理の未来を担うといわれ、JASRACの脅威になるという見方もありました。ただ私たちは、ブロックチェーンを敵にするのではなく自分たちのツールとして活用するべきではと考えたのです。

 JASRACでは当時、「先進技術活用プロジェクト」としてさまざまなテクノロジーの活用を検討するプロジェクトを立ち上げました。ここでブロックチェーンの検討を開始しました。私はもともとシステム部長を務めており、このときは理事の立場でプロジェクト責任者を務めていました。

小林 ブロックチェーンについては、そのときどんな取り組みをしていたのですか。

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