伊澤 著作権使用料の徴収から権利者への分配まで、仮想通貨を使ってリアルタイムにお金を流す仕組みのプロトタイプをブロックチェーンで構築しました。一連の流れを可視化・透明化できるのは面白かったですね。これはKENDRIXの種になりました。
一方、JASRACの課題として、若いクリエイターでJASRACメンバーになる人が少ないという実情がありました。どこに原因があるのだろうと考え、若手クリエイターの声を聞く機会を設けたのです。
小林 JASRACに信託しない理由を直接聞いたのですね。
伊澤 はい。そこで先ほど述べた「手続きのハードルが高い」という声を受け取ったのです。また、JASRACは「心理的に近い存在ではない」という声もありました。一方、自分の曲だと証明しにくい不安は抱えています。
こうして、ブロックチェーンの技術を使ってKENDRIXのようなプラットフォームを作ることにしました。手続きのハードルを下げるだけではなく、JASRACが「心理的に近い存在ではない」という声に対しても、きっと意味があるものとなるのではないかと考えました。
私たちは若い世代の遠くにいる古い組織ではなく、プロアマ問わずクリエイターへ真摯(しんし)に向き合おうとしている組織だと伝えたかったのです。今回、JASRACメンバー以外のクリエイターが使えるサービスとして誕生した背景には、こういった思いがあります。
小林 KENDRIXはブロックチェーンを活用し、1年ほどでローンチに至りました。振り返ってどうでしたか。
伊澤: われわれにとって過去にないスモールスタートであり、ローンチ時点の機能は限定的で実験的です。ある意味でJASRACらしくありません。それでもゴーサインを出して進められたのは、あくまでメイン事業から離れたプロジェクトとして位置付けたからです。
例えばJASRACメンバーになる通常の手続きは、従来通り書類で行えます。KENDRIXを介す必要はありません。メイン事業に影響がないと合意をとれているからこそ、大胆になれたともいえるでしょう。
DXで大切なのは、このプロジェクトは価値あるものだという証拠や成果を素早く作り、社内に示すことです。するとDX推進の機運ができます。スモールスタートの意義はここにあります。先進技術活用プロジェクトでは、他にもさまざまな取り組みを進めていますが、全てスモールスタートで行いました。
例えばRPA(ロボットプロセスオートメーション)の取り組みでも、100時間以上かかっていた業務が30時間程まで短縮されました。そういった実績を他部署が聞くと「うちの部署もDXを進めよう」となります。
伊澤 先ほど、このプロジェクトはメイン事業から離れたものだと表現しましたが、結果的にそのメイン事業にも大きな副産物をもたらしました。
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