宣伝しないビジネスモデルの成功要因は、製品やサービスの革新性や品質において差別化を図って顧客との信頼を積み上げ、ブランドを築き上げたところにある。
「スタジオジブリ(あるいは宮崎駿監督)」「イーロンマスク」「スノーピーク」といったブランドは、「あの人・あの会社が出すモノに間違いないだろう」という信頼を醸成してきた。ブランドのファンになった顧客はこれまでの信頼があるからこそ、他社のサービスやプロダクトと比較検討することなく、ある種の「確信」を持って購入に至るのだ。
こうしたブランドがある企業は広告に頼らずとも、ファンが能動的に情報を仕入れて拡散してくれるという好循環が起きる。
しかしながら、これらの例だけをもって「広告はオワコン」と断じるのは早計だ。ブランドや信頼を確立するために、ビジネスの立ち上げ初期においてはやはり広告が有効な集客手段となることに違いはないだろう。
正確には、ファン層が拡大してブランドイメージの醸成が進むにつれて、広告の必要性は次第に薄れていくと、筆者は考えている。そもそも広告の出稿にあたっては、事前に「どんな層が自社のサービスや製品に反応しやすいか」というターゲティングをした上で媒体の選定などを行うものだ。しかし、歴史の長いブランドを有する企業の場合、広告のターゲットは既にファンである可能性が高いという問題点が生じる。
読者の皆さまも、検索エンジンで購入を検討している商品を調べたとき、「スポンサー」という検索連動広告枠のすぐ下に公式サイトが出てきた経験はないだろうか。
例えば筆者が「ヨドバシカメラ」と検索すると、検索結果に2つの同社のECサイト「ヨドバシドットコム」が表示される。このとき、上のリンクをクリックするとヨドバシカメラはグーグルに広告費を支払わなければならないが、下のリンクでは広告費は発生しない。
ヨドバシカメラのブランドを既に知っているユーザーならば、広告を出稿しなくても同社のサイトにアクセスできたはずだ。筆者は広告会社の人間であるため、普段は広告費が発生しない下部のリンクをクリックすることを心掛けているが、多くのユーザーは動線の近い「スポンサー」リンクをクリックしてしまうだろう。
広告の盲点とはここにある。つまり、ビジネスが成功するほど、新規の顧客だと思っていた流入の多くが既に顧客である可能性が高まるのだ。特に広告を打たなくても獲得できたはずの顧客に対しても広告を払うのは、経済合理性を損なってしまう。
このような非合理性も是とした上で、ライバルの参入を妨げる障壁として重層的な広告戦略を打つ場合もある。しかしスタジオジブリのような圧倒的な独自性とブランドを確立しているケースでは、ライバルの参入を心配する必要はないのだろう。
広告ではなく口コミで流行が急速に広がる現象は、コロナ禍における鬼滅の刃ブームの立役者でもあるSNSの存在も大きい。
従来、口コミといえば数年単位での地道な活動が必要だったが、情報の拡散スピードが加速化している近年では、わずか数日で日本・世界各地に情報が行き渡るようになっている。
これは、映画がこれまで宣伝に頼らざるを得なかった「初速」の問題を解決する要素となっており、顧客の自然な口コミがこれまで採用されてきた広告媒体と同じか、それを上回るスピードで広がりを見せていることの現れであるともいえるだろう。
宣伝しないビジネスモデルは広告費を抑えられる一方、製品やサービスにおいて他に一線を画す独自のブランドイメージが求められる。
経営者やマーケティング部門の担当者は、自社のビジネスの「武器」と、ビジネス環境の変化を機敏に察知した上で、従来の広告手法とは異なるアプローチを取ることも検討すべきだろう。
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