もはや東京郊外ではない!? 関東の鉄道新線は「県都」に向かう杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/5 ページ)

» 2023年07月30日 11時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

埼玉県:東西交通大宮ルート

 埼玉県の県庁所在地は東北本線の浦和駅だ。しかし埼玉県の中心都市は大宮駅周辺である。大宮駅周辺の存在感が大きく、地理のクイズ問題で間違えやすい事例ともいえる。埼玉県は大宮県として発足し、県庁も大宮宿に置く予定だったけれど、当時は浦和宿のほうが栄えていたために浦和に県庁を置いて浦和県に改称した。

 その後、近隣の県をまとめて埼玉県が発足し、県庁はそのまま浦和宿に置かれた。1883年に日本鉄道が上野〜熊谷間の鉄道を開通(現在の高崎線)したときも、県庁最寄り駅として浦和駅が設置された。しかし大宮駅は設置されなかった。

 その後の大宮の発展は大宮駅新設のおかげといっていい。1885年に青森方面の鉄道の分岐点として大宮駅が設置された。そのきっかけは地元の名士、白井助七が駅と鉄道用地を日本鉄道に無償で提供したからだ。白井は浦和宿の発展の陰に大宮が廃れてしまったことを憂い、大宮をなんとかしたかったそうだ。

 青森への鉄道分岐点は熊谷、大宮、浦和の3地点が検討されたけれども、鉄道頭(後の鉄道庁長官)の井上勝が大宮駅分岐を決定する。白井が寄付した広大な土地と、白井がいう寂れた土地が鉄道路線と施設建設に好都合だった。大宮には鉄道工場が建設されたこともあり、大宮は鉄道の町として栄え、やがて浦和を上回る商都になっていく。埼玉県はこうして県政と経済の町が分離し、ともに栄えた。現在はどちらもさいたま市である。

 大宮駅を通る路線は東北新幹線、上越新幹線、JR宇都宮線(東北本線)、JR高崎線、JR京浜東北線、JR埼京線、JR川越線、東武鉄道アーバンパークライン(野田線)、埼玉新都市交通ニューシャトル(伊奈線)だ。こちらも横浜駅のように路線が多いけれども、弱点はすべて南北方向の路線で、東西方向が手薄になっていること。少し北から川越線が西へ、アーバンパークラインが東へ進むけれども、大宮市街地を遠回りするような形だ。

 そこで構想されている路線が東西交通大宮ルートだ。東西といっても大宮駅を中心とした東西ではなく、大宮駅の東側、埼玉高速鉄道浦和美園駅を結ぶルートである。実態としては西の大宮と東の浦和美園を結ぶさいたま市東西ルートのほうが分かりやすい。

 さいたま市は大宮駅南北の鉄道路線のほか、埼玉高速鉄道も南北方向で、さらに北の岩槻・蓮田へ延伸する構想がある。さいたま市の東側の越谷市に東武スカイツリーライン(伊勢崎線)があって、こちらも南北方向である。東西方向は前出の川越線、東武アーバンパークラインがあり、南端に武蔵野線がある。つまり、さいたま市の中心部東西方向だけがぽっかりと鉄道空白地帯になっている。現在はバス路線網が発達しているとはいえ、慢性的な渋滞があり定時性に問題があるという。

 そこで構想された路線が大宮駅東口から西へ向かう路線だ。LRTまたはBRTが検討され、現在はLRTを想定した議論が続く。特に大宮市役所が少し南のさいたま新都心に移転すると決まってから待望論が起きている。沿線には団地、病院、高校、大学などがあり、完成すれば大宮駅と埼玉スタジアム2002を直行する路線としても期待できる。

 東西交通大宮ルートは、運輸省の運輸政策審議会の答申18号で「大宮〜さいたま新都心〜県営サッカースタジアム」について「今後整備について検討すべき路線」に挙げられた。この答申は省庁改編後に国土交通省交通政策審議会答申198号に引き継がれ、「地域の成長に応じた鉄道ネットワークの充実に資するプロジェクト」として「まちづくりが進められている大宮駅周辺地区と浦和美園地区とのアクセス利便性の向上を期待」された。ただし「収支採算性に課題がある」とも付されている。

 さいたま市は「さいたま市地域公共交通協議会東西交通専門部会」を設置し、年に1度または2度開催している。今年は1月20日に令和4年度第2回が開催され、高速道路と一体整備して高架下を活用するルートなど4案が検討された。さいたま市議会では議員から「埼玉高速鉄道」を埼玉サッカースタジアム2002付近より分岐して大宮へ延伸する提案もあった。9月1日に令和5年度第1回が開催予定で、地下鉄案がどう扱われるか興味深い。

東西交通大宮ルートの検討案(出典:さいたま市、さいたま市地域公共交通協議会 東西交通専門部会

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