AIカメラと購買データ(POS)を掛け合わせた広告を運用する中で、他の効果的な活用方法が見えてきていると山本氏は話す。例えば、次のようなポイントだ。
1つ目は、最適な広告コンテンツづくりにつながるという点だ。Satudora InStore Adsでは複数の広告パターンを制作し、ABテスト配信をしている。このため、商品とタレントの相性や効果的な訴求メッセージなど、配信対効果の高い広告の検証ができる。
2つ目は、最適な売り場づくりにつながる点である。レジ前や入口付近など、目立たせたいプロモーション用の棚に商品を置くと、売り上げが確実に上がることがサイネージに取り付けられたAIカメラの実視聴データから裏付けられた。近年は、店舗の人手不足もあり売り場のレイアウト変更に時間がかかったり、キャンペーン開始タイミングに間に合わなかったりと問題が深刻化していた。売り場づくりの最適解が分かれば、リソース配分の優先順位も見極めやすくなるだろう。
3つ目は、店舗に合わせた広告配信ができるようになることだ。例えば市街地のサツドラ店舗をAIカメラで観測すると、30〜40代の女性やビジネスパーソンが多かった。一方、ローカルエリアでは比較的シニア層が多いという傾向が見えてきた。エリアや時間帯で来店客の属性が異なるわけだ。Satudora InStore Adsは店舗によって配信内容を変えられるので、ターゲットを絞った広告配信も可能になるだろう。
顧客のログデータをもとにシミュレーションやABテストを繰り返せば、さらに店頭広告のPDCAを高速回転させることにもつながるだろう。
日本チェーンドラッグストア協会の発表によると、全国のドラッグストア店舗数はコロナ禍を経ても出店意欲が衰えず、調査を開始した00年度の1万1787店舗から、22年度には2万2千店舗を突破した(2021年度版業界推計 日本のドラッグストア実態調査(速報版)より)。
サツドラはツルハドラッグに続いて北海道で圧倒的なシェアを築いてきたが、近年はココカラファインやサンドラッグなど全国チェーンも店舗数を拡大させており、競争が激しくなっている。
「年々、競合との差別化が厳しくなっている今、メーカーが打つテレビ広告やキャンペーンだけに頼っていては、どこのドラッグストアも同じになってしまいます」(山本氏)
消費者に選んでもらうためには、もっと地域性やさまざまなデータやプロモーションと掛け合わせた店づくり、広告運用の精度を高めていかなければ生き残れない。
今後の展望として山本氏は「データ活用で顧客理解は深まっているものの、分からないこともまだ多いです。サツドラの約200店という店舗数は、PDCAを回して最適解を探すにはちょうどいい規模だと思っています。メーカーにとっても良い実験の場になるはずです」と自信を見せ、今後も試行錯誤しながらベストプラクティスを探っていきたいと抱負を語った。
AIカメラのデータを皮切りに、顧客が商品購入にいたった「行動の背景」まで分かるようになれば、小売りは一人一人に刺さる売り場や広告づくりを実現できるかもしれない。
サツドラの店舗を訪れた時、Webの世界と同じく「自分のために考えてくれたのかも?」と錯覚するほどの店舗体験ができることを楽しみに待ちたい。
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