今回のビッグモーターはどちらだったのでしょうか。特別調査委員会の調査報告書において、社内で行われた降格処分は人事権の行使ではなく、懲戒処分として行われたものと位置付けられ、懲戒処分を行う際の手続きの不備が指摘されています。
実際に懲戒処分を行う場合、以下のポイントについて確認が必要です。
(1) 就業規則に懲戒処分に関するルールが記載されている
就業規則に「従業員が〇〇をした場合は、△△処分を行う」と具体的に記載されていることが必要です。よって就業規則がない会社は懲戒権を放棄している状態といえます。
(2)従業員が就業規則の懲戒処分のルールに当てはまる行為をした
憶測や思い込みでなく、間違いなく従業員がその行為をしたと客観的に確定する必要があります。証拠となる品があれば、きちんと保管しましょう。
(3) 適正な手続きを取る
就業規則に懲戒処分に関する規定がある場合は、手続きについても記載があることが一般的ですから、その内容に則って進める必要があります。特に、処分を確定する前に処分対象者に弁明の機会を与えることが大事です。
(4)バランスの取れた処分にする
会社が行う懲戒処分は、懲戒処分の対象となった従業員の行為の重さとバランスの取れたものでなければなりません。「遅刻したら懲戒解雇」というような極端な例は、仮に就業規則に記載があっても司法の場では権利の濫用となり認められないでしょう。また過去に行った懲戒処分とのバランスも問われます。
では、実際に争いとなった例を見ていきましょう。
(令和元年11月27日 神戸地裁判決)
裁判所は、以下のようにXの悪質性と減額幅の妥当性は認めました。
「…Xの私的閲覧は、業務とは関連性がない資産運用等の私的な目的でなされたもので、何ら酌むべき点はなく、その態様は、約5カ月半のうち合計86日で、1日当たり15分から17分程度と職務専念からの逸脱の程度は小さくなく、また、その不利益の程度も、役割給が6720円、役職手当が5000円の減額となり、…Xの受ける不利益は必ずしも大きいものとはいえない。」
しかし、最終的に以下の理由から降格処分を無効と判断しました。
「しかしながら、…業務への支障が大きいとまではいうことはできず、しかも、Xの等級が係長相当であったことからすると、会社に与える影響もそれほど大きいわけではなく、職場秩序を乱すものとまではいうことはできず、また、これによってサーバーセキュリティ上の危険が生じたわけではない。」
「降格処分前、Xが懲戒処分を受けたことやXの勤務成績が不良であったことはうかがえず、Xも会社による注意喚起等で私的閲覧が禁止されていることを認識していたものの、Xに対する個別の注意や指導等はなく、Xに対する処分として、降格処分の他に減給処分もなし得たが、この点について会社内で十分な検討がされたことはうかがえない。」
「これらの事情を考慮すると、本件降格処分は、いささか重きに失するものであり、社会通念上の相当性を欠くものというべきである。」
懲戒処分を行うときには会社も感情的になりがちですが、行為と処分のバランスは冷静に検討する必要があります。
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