これからの宇都宮ライトレールの課題は、何といっても「通勤利用者の獲得」だ。利用者の“基礎票”ともなる通勤需要だが、工業団地群の中では、HONDA以外の企業がまだ宇都宮ライトレールへの転換を示しておらず、様子見の姿勢を崩していない。
そのためか、もともと発表されていた「ピーク時6分毎(1時間10本)日中10分、快速運転で所要時間40分以内」というダイヤは、少し控えめに「ピーク時8分ごと・オフピーク時12分ごと、普通便のみ」での開業となった。
企業の送迎バスは委託契約で運行されている場合も多く、実質的に自社で運行していたHONDA(子会社の「ベストロジ栃木」が運営)以外は、送迎バスの契約を直ちに終了することは難しいだろう。快速運転がない状態では、各企業の送迎バスの所要時間(40〜50分)と所要時間がほとんど変わらない。また、1編成160人で1時間8本、1280人の輸送では「ラッシュ時は送迎バスと違って、立って乗車することになるのでは?」という不安も出かねない。
HONDA以外の通勤需要を宇都宮ライトレールが吸収していくには、早期の「本数増加」と「快速運転」は必須となってくるだろう。
加えて問題になるのは「地元利用者の確保」だ。「渋滞ガチャ」が非効率な状態であるにせよ、何をするにもクルマ、という暮らしが当たり前となっている地域で「宇都宮ライトレールに乗り換えてください!」というのは相当な難問だ。
むしろ、市内各地でヒアリングを行った結果では「鬼怒通り」(電車通り)の車線減少や信号の待ち時間増加などで、さらなる渋滞の発生を懸念する声も聞かれた。また、試運転の段階でも、線路を塞いで右折しようとするクルマに電車が遮られるなど、交通ルールの浸透にも時間がかかりそうだ。
宇都宮ライトレールは第2期工事として、宇都宮駅東口〜東武宇都宮駅周辺(宇都宮駅の西側エリア)への延伸を計画している。長らく賑わいを生み続けてきたこのエリアも、近年では「ベルモール」などの郊外型店舗に押されて「宇都宮PARCO」「109 UTSUNOMIYA」が相次いで閉店するなど、苦境が続いている。故に、宇都宮ライトレールの延伸に期待する声も多い。
しかし、第2期工事が行われるかどうかは、今回開業する宇都宮駅〜芳賀町の成否にかかっている。宇都宮ライトレールにとっても、企業の通勤の取り込みだけでなく、通勤に限らない幅広い需要を掘り起こし、早期に結果を出したいところだ。
バス・鉄道・クルマ・駅そば・高速道路・都市計画・MaaSなど、「動いて乗れるモノ、ヒトが動く場所」を多岐にわたって追うライター。幅広く各種記事を執筆中。政令指定都市20市・中核市62市の“朝渋滞・ラッシュアワー”体験など、現地に足を運んで体験してから書く。3世代・8人家族で、高齢化とともに生じる交通問題・介護に現在進行形で対処中。
また「駅弁・郷土料理の再現料理人」として指原莉乃さん・高島政宏さんなどと共演したことも。著書「全国“オンリーワン”路線バスの旅」(既刊2巻・イカロス出版)など。23年夏には新しい著書を出版予定。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング