リテール大革命

店舗と客の接点増には「ムダや遊び」が不可欠 仕掛けで変わる体験価値「小売DXと仕掛学」後編(3/3 ページ)

» 2023年09月04日 07時00分 公開
[濱川太一ITmedia]
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アバター接客の思いがけない効果

郡司: DXにエモーションが必要だという点は、すごく思うところがあって、横浜駅直結の施設でジョイナスという地下ショッピングセンターがあります。2年ほど前にジョイナスの関係者の方と話をする機会があり、すごくいい話なので、記事に書いたりもしました。

 何かというと、ショッピングセンターなんですが、駅への通り道ですごく人が多い。今まで有人のインフォメーションセンターを置いていたら、週末は窓口に1日1000人、平日は700人ぐらいお客さんが来ていたそうです。女性2人がお客さんの対応をしていますが、人数が多いので並んでしまう。後ろに大勢が並んでいる中で案内しなきゃいけないプレッシャーはすごくストレスですよね。

 しかも、お客さんは日本語、英語、中国語、韓国語、みんないろいろな言語を話します。質問内容も「トイレはどこ?」「バス乗り場はどこ?」などさまざまな質問に対応しないといけない。

 コロナ禍でなお一層、対人での対応にプレッシャーを感じていた中で、ジョイナスがやったのは、それまで有人だったインフォメーションセンターに、「AIさくらさん」というサイネージ内でアバターが接客するシステムを設置しました。今まで有人カウンターだった場所にこれを設置することで、簡単な質問には機械が回答できるようになりました。

 そして50メートルほど奥に、有人カウンターを移しました。これによって1日約1000人来ていたお客さんのうち、7割は機械で対応できるようになった。有人カウンターでは残り3割の人だけに対応すればいいため、一人一人に対してじっくり時間をかけて接客できるようになりました。

ジョイナスはそれまで有人だったインフォメーションセンターに、サイネージ内でアバターが接客するシステムを設置した(提供:郡司昇氏)

 このときたまたま、有人カウンターを眺めていたのですが、小学生3人が並んでいて、何をやっているのかなと見ていたら、カウンターの女性にバンドエードを巻いてもらっていました。恐らく子どもがちょっとけがをしたのでしょう。それで、受付の女性が手当てをしてあげていたのです。

 こういう人ならではの対応ができるようになったのは、デジタルを使って負担を軽減できたからこそだと感じています。

松村: デジタルはデジタルだけでは機能しないですよね。それを使う人間がいるわけなので、人間にとってのデジタルの価値は、多分さまざまです。人間にとっての価値と、効率化にとっての価値。立場によって価値観は違ってくると思いますが、一番重要なのは人間にとっての価値なので、その視点でどうデータを扱うかは、まだまだこれから進化する余地があるかなと思います。

郡司: ChatGPTもそうですが、テクノロジーが発展することで、できることが広がってくる。効率が良くなると、人でなければできないのに、今まで手が回らないからできなかったことに、手を回せるようになり、本当の価値を生み出すことができるようになります。これから一層、テクノロジーと人がうまく活躍できればいいなと思います。

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