損保ジャパンとテレビ局はなぜ似ているのか 「ヤバい取引先」をかばう会社の特徴スピン経済の歩き方(4/7 ページ)

» 2023年09月05日 11時07分 公開
[窪田順生ITmedia]

不正に手を染めた背景

 なぜこんな不正に手を染めたのかというと当時、各テレビ局はし烈な視聴率競争を繰り広げていて、制作現場の人々は常に上から高視聴率を出せというプレッシャーをかけられていた。調査報告書によれば、このプロデューサー氏も「視聴率さえ上げれば何をやってもいい」と述べ、モラルがぶっ壊れていた。

 当時は個人犯罪ということで一件落着で幕が引かれたが、1999年ごろにテレビ番組の制作現場にいた筆者は、数字のために、なんの罪もない人を侮辱したり、異文化を笑いにしたりとモラルのぶっ壊れたテレビマンに山ほどお目にかかった。

 さて、そこで想像していただきたい。この視聴率買収事件の4カ月前、東京高裁が文春の名誉毀損裁判の中で、ジャニー喜多川氏の性加害を認定した。「結果(視聴率)を出すなら何をしてもいい」という空気がまん延していた当時のテレビ業界で、この裁判の結果を報道したり、ジャニーズ事務所に性加害の事実を問いただしたりすることができるだろうか。

 できるわけがない。当時はSMAPが国民的人気で、『世界に一つだけの花』が大ヒット。ドラマ・音楽番組・バラエティー番組までジャニーズ事務所のアイドルなくして制作できない状況だった。

故ジャニー喜多川による性加害問題について当社の見解と対応(出典:ジャニーズ事務所

 そんな中で「文春の裁判でジャニーさんの性加害が認定されたので関係を見直しましょう」なんてことを言うようなテレビ局の社員は即座に左遷されただろうし、番組制作会社が「ジャニーズ外し」の番組をつくったら、そっちが取引を終了させられる。多くの人がジャニーズにメシを食わせてもらっていた世界なので、そんな恩知らずなことを言い出す人間のほうが「おかしいよ」と叩かれてスポイルされてしまう。ムラ社会の中ではムラの秩序と安定を乱すほうが「悪」なのだ。

 そして、「ムラ社会の中でパイを奪い合っているうちに結果を出せば何をしてもいいとモラルが崩れていく」のは、損保ジャパンにも見て取れる。

 06年、明治安田生命保険や損保26社の保険金不払い問題が発覚する中で、損保ジャパンも保険金の未払いや契約の水増しなどが発覚した。その原因となったのが、「過剰なノルマ」だ。

 当時の社長が支店長クラスにまでメールを送りつけ、「(販売目標は)必ず達成するように強力な取り組みをお願いしたい」などと圧力をかけていて、それが不正の呼び水になったと批判された。当時の社長は、引責辞任に追いやられた。

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