では、なぜ旧日本軍で員数主義がまん延していたのかというと、旧日本軍が「閉鎖的な世界で限られたパイを奪い合うカニバリ」をしている組織だったからではないか、と個人的に思う。
旧日本軍は閉鎖的で競合がいないムラ社会で好き放題できた。そして、海軍と陸軍という二大勢力が、限られた国家予算や物資や兵力を奪い合っていた。当時の日本は海外からの物資が入らなくて、深刻な資源不足と食料不足に陥っていた。つまり、人口減少で市場がシュリンクする中で、限られたプレイヤー同士でパイの奪い合いをしているテレビ局や損保業界と同じような環境だった。
だから、旧日本軍は大本営から現場の一兵卒まで員数主義に毒されてしまったのである。
そして、この員数主義は80年を経た今も日本企業に受け継がれている。これまで説明してきた「結果を出せば何をしてもいい」というのは、「数字が合っていれば何をしてもいい」という員数主義を現代風に言い換えたものに過ぎない。
報道対策アドバイザーとして、これまで不祥事企業の内部がめちゃくちゃになっている様を見る機会が多くあったが、そこで起きている問題は驚くほど、旧日本軍内のガバナンス崩壊とよく似ている。
ジャニーズ事務所の次期社長として、所属タレントの名前が浮上しているが、不正の内容を見て見ぬふりをしていた可能性のある人にかじ取りを任すのは、典型的な「ムラ」の発想だ。再生に必要なのは「顔」を変えることではなく、まずは軍隊のような閉鎖された世界を変えることではないか。
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。窪田順生のYouTube『地下メンタリーチャンネル』
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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