マーケティング・シンカ論

生成AIには作れない、「文字だけ」の防災広告 足りないのはUXデザインの視点グッドパッチとUXの話をしようか(2/3 ページ)

» 2023年09月08日 08時00分 公開

なぜ、生成AIと広告運用は相性が良いのか?

 インターネット広告では、広告主が予算や配信内容(広告に使用するテキストや画像)を自由に運用し、掲載内容を変えながらユーザーに情報を届けることができる「運用型広告」が主流です。運用型広告は配信後、広告に表示される画像や動画などを変えながら配信効果が高いものに最適化していけます。

 効果を高めていく運用が自動かつ迅速にできることがメリットである一方、1秒でも速く、より効果的なビジュアルに差し替えていく必要があり、膨大な数のサンプルが必要になるというデメリットもあります。

 この課題を解決したのが生成AIです。生成AIはデータのパターンや関係を学習して広告を構成するキャッチコピーやバナー画像を、より効果が高くなるように作ることができます。

 キャッチコピーやバナー画像は通常、制作者の意思が反映されるので、単に「効果」だけを追求して作られていません。これを生成AIが代替することで、制作者とのコミュニケーションも大幅に減らせます。

 また、生成AIはわずかなデータがあれば、元データに関連しない情報も作り出すことができます。そのため、材料となる画像がなくとも複数のパターンを作り出したり、物理的に撮影が不可能だった状況の写真を使ったような画像も作れるのです。

 さらに最新のツールを利用すれば、メールマガジンのような長文のテキストや動画、BGMの制作も、目的に合わせて簡単に作成可能です。AIの進化は数年前から加速しており、不確実なトレンドの予測や、ユーザーの表情から最適な広告を配信する仕組みも提供されています。

 電通グループ、博報堂グループは両社とも、これまで進化してきたAIと生成AIを組み合わせたツールを提供しており、広告運用の費用対効果を高める上で大きな期待と関心を集めています。

広告はユーザーにとって「邪魔」なもの?

 一方で、広告にAIを導入するのはリスクもあります。

 事業者が多様なツールを活用し、膨大な予算を投入して制作・配信した広告だとしても、サービスを利用するユーザーの視点に立つと「邪魔な広告やCM」と感じることも少なくないでしょう。

 広告をカットする有料サービスもあるほどで、広告がユーザーにとって自分の見聞きしたいコンテンツを阻害する要因になってしまっては、興味を引くどころか、悪印象を与えてしまいます。その点が難しいところです。

 筆者がヤフージャパンで働いていたときは、広告とメディアの部署が分かれていたために、巨大なビジネスの柱である広告が悪者のように扱われていて驚くことがありました。

 UXデザイン、つまりユーザー体験のデザインというのは「ユーザーの満足度やモノやサービスに対する評価(好感度)が高まれば、ビジネスにも好影響がある」ことを前提とした考え方です。

 一方で、インターネットによる無料のサービス提供と広告ビジネスでは、その概念は通用しません。「ユーザーが満足し、増えるだけでは事業は成長しない」という、ある種不均衡な状態が生まれてしまったわけです。

 単に広告のクリックを誘導することを「成果」とし、それを最優先で追求するデザインは、場合によってはユーザーにとって不快な体験や感情をもたらすことがあります。

 例えば、目立たせたいために本来ユーザーが一番の目的とするコンテンツより広告を大きく表示したり、過剰なアニメーションや過度に注意を引く色で視線を無理に誘導しようとしたり、押してみたら思っていものと全く違うWebサイトに誘導されてしまったり……といった経験はありませんか?

 こういったことを起こさないためにも、ユーザーにとって最適な体験を理想として考えながら、適切な広告のクリエイティブや配置を「人間」であるデザイナーが検討することは、サービスの利用者にとっても、そしてビジネスを持続的に成長させたい企業にとっても重要だと考えています。

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