「1杯1000円超え」でも絶好調な椿屋珈琲 ルノアールとの違い、コメダとの意外な共通点古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)

» 2023年09月08日 07時00分 公開
[古田拓也ITmedia]
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ルノアールは苦戦?

 日本のカフェ業界は、多くのブランドが熾烈(しれつ)な競争を繰り広げている。中でもルノアールは最終赤字を脱せておらず、立ち上がりの遅さが際立つ。

 ルノアールは1973年創業という歴史を持ち、古くから日本のカフェ文化を牽引(けんいん)してきた。多くの人々にとっては懐かしの場所としてのイメージが強く、安定したサービスとクラシックな雰囲気が魅力である。

 ルノアールの財務諸表で有名なのが、利益に占める「受取補償金」の割合が多い傾向にあるということだろう。同社は従来、受取補償金という特別利益が多く計上されていた。この勘定科目は通常、損害賠償金や示談金を受け取った際に仕訳される項目なのだが、ルノアールでは、多い時で純利益の半分程度がこの受取補償金にて賄われていたことがあった。

 喫茶店における受取補償金とは、通常、テナントに入っているビルが老朽化したり、再開発の対象になるなどして立ちのきを余儀なくされた際に、ビルのオーナーから受け取る「立ちのき料」である。立退料の相場は賃料の数年分に相当する場合もあり、一等地の店舗立ちのきに際しては数億円もの立退料が発生するケースもある。

 ルノアールは出店の際に再開発予定やビルの老朽化度合いなども考慮して計画を練るといわれている。筆者のオフィスがある池袋周辺では、近く再開発される予定である池袋東口の北部エリアにも2店舗が出店されている。両店舗はわずか75メートルほどしか離れておらず、そこから約100メートル間隔で6店舗ほどを集中的に出店しているのだ。

photo ルノアールは池袋周辺で、再開発の予定がある地域にも2店舗を有している(Googleマップより)

 しかし、同社が23年5月に発表した2023年3月期決算によれば純利益は前年同期の3億4700万円の黒字から2億9300万円の赤字に転落しており、受取補償金が0円となっていた点が話題となった。

 このように考えると、コロナ禍で建設や街の再開発に時間がかかったり、オーナー側に立退料の支払いに必要な体力を消耗してしまったりしたことも、同社のビジネスに逆風となっている可能性があり、単純には比較できないことが分かる。

コメダ珈琲と椿屋珈琲の意外な共通点

 今度は椿屋珈琲とコメダ珈琲を比較したい。同社も一見ビジネスモデルが大きく異なるように見えるものの、両者の株価と業績は足並みをそろえるかのごとく伸びている。

 コメダ珈琲と椿屋珈琲の立ち位置は、価格帯や提供される料理の量といった観点で真逆に属するというイメージがある。そんな正反対の性質を有するコメダ珈琲と椿屋珈琲が持つ、意外な成功の共通点とは何なのか。

 コメダ珈琲は名古屋発祥で、シロノワールやモーニングセットなど地域色を感じさせるコスパの良いメニューと、アットホームな雰囲気が特徴だ。その一方で、椿屋珈琲は、高級感あふれる店舗デザインと上質なコーヒーを提供し、準富裕層以降のターゲット帯を中心にアピールしている。

 コメダ珈琲では、1杯のコーヒーと一緒に提供される無料のトーストが非常に人気で、他のカフェチェーンとは異なる魅力となっている。その一方で、椿屋珈琲は量ではなく高級なコーヒー豆を使用し、バリスタの技術が光る1杯を提供しており、コーヒー愛好家には特に支持されている。

 両社とも、提供する価値に見合った価格設定をしており、顧客層は被らない。コメダ珈琲は比較的手頃な価格でありながら、ボリューム感のあるメニューが提供されている一方で、椿屋珈琲は高価格だが、その分の価値をしっかりと感じさせる上質なコーヒーを楽しめる。

 このように、コメダ珈琲と椿屋珈琲の成功の背後には、ブランドアイデンティティーの確立、独自の価値提案、明確なターゲット層の設定にあるといえるだろう。過当競争ともいわれる喫茶店業界では、成功例をまねるのではなく、独自のビジネスモデルや立ち位置を見いだすことによって勝機を得られるのだ。

 原材料費や人件費の高騰が続く中でも、売上高の伸びと足並みをそろえる形で利益率も回復させている椿屋珈琲。同社はコロナ禍中には業績を落としたが、その時に培われた店舗のDX技術や経営合理化がコロナ後は利益をブーストさせるノウハウとなり、今の急成長を下支えしているといえるだろう。

 まさに「雨降って地固まる」というべき椿屋珈琲における復調といった事例は、コロナ禍中に同じようなダメージを受けた企業群の中でもいくつかあると考えられる。飲食セクターや実店舗を構える各企業の決算動向に今後も注目していきたい。

筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO

1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Twitterはこちら


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