扶養を外れ、パート勤務を増やすなら要注意 「年収の壁」の落とし穴とは社労士・井口克己の労務Q&A(2/2 ページ)

» 2023年09月22日 12時30分 公開
[井口克己ITmedia]
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手取りが減らなければ問題ないのか?

 政府からの助成金を活用することで、手取りの逆転現象はなくなりますが、健康保険組合によって医療費の自己負担額に差異があります。そのため、自分の勤務する会社の健康保険組合に加入することで、病気になったときの自己負担額が大幅に増える、または下がることがあります。特に医療費が高額になるとき、その差は顕著です。どのような時に高額になるのか説明します。

高額療養費制度

 「高額療養費制度」とは、1カ月で支払った医療費の自己負担額が一定額を超えると差額が返金される制度です。上限額は加入者の標準報酬月額によって定められています。全ての健康保険組合に共通して設けられています。

photo 高額療養費制度の上限額(1カ月)

健保組合独自の付加給付制度

 「付加給付制度」とは、健康保険組合が定めた独自の上限額を医療費の自己負担額が超えると、差額が返金される制度です。上限額は健康保険組合によって異なりますが、2万〜3万円程度の場合が多いようです。また、呼び名は「一部負担還元金」「療養費付加金」など健康保険組合によってさまざまです。高額療養費制度の上限額より低額になるため、自己負担する医療費は最大でも付加給付制度の上限額までに抑えられます。

 この制度は、大手企業の健康保険組合で多く採用されており、中小企業が多く加入する「協会けんぽ」には設けられていません。

 つまり、付加給付制度がある健康保険組合から付加給付制度のない健康保険組合に変わると医療費の自己負担の上限額が上がることになります。

どれほど違うのか

 付加給付制度がある場合とない場合でどれくらいの差が発生するのか、具体例でみていきましょう。

 標準報酬月額が11万8000円の人が、1カ月の入院と手術で医療費が40万円かかったとします。付加給付制度の上限が2万円とした場合、自己負担額の差は3万7600円となります(下図参照)。

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まとめ

 健康保険組合はどこも保障内容が同じというわけではありません。「年収の壁」を超えることで、加入する健康保険組合が変わる場合は、付加給付制度の有無を確認してください。

 付加給付制度のある組合から、ない組合に変わる場合は、ご自身の年齢や健康などを加味して慎重に判断しましょう。

著者プロフィール

井口克己(いぐちかつみ) 株式会社Works Human Intelligence WHI総研フェロー

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神戸大学経営学部卒、(株)朝日新聞社に入社し人事、労務、福利厚生、採用の実務に従事。(株)ワークスアプリケーションズに転職しシステムコンサルタントとして大手企業のHRシステムの構築・運用設計に携わる。給与計算、勤怠管理、人事評価、賞与計算、社会保険、年末調整、福利厚生などの制度間の連携を重視したシステム構築を行う。また、都道府県、市町村の人事給与システムの構築にも従事し、民間企業、公務員双方の人事給与制度に精通している。現在は地方公共団体向けのクラウドサービス(COL)の提案営業、導入支援活動に従事している。その傍ら特定社会保険労務士の資格を生かし法改正の解説や労務相談Q&Aの執筆を行っている。

株式会社Works Human Intelligence

人事管理、給与計算、勤怠管理、タレントマネジメントなど人事にまつわる業務領域をカバーする大手法人向け統合人事システム「COMPANY」の開発・販売・サポートを行うほか、HR関連サービスを提供している。COMPANYは、約1200法人グループへの導入実績を持つ。

全てのビジネスパーソンが情熱と貢献意欲を持って「はたらく」を楽しむ社会の実現を目指す。

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