どちらが得? 「ボーナスはあるが月給は低い」と「月給は高いがボーナスはない」社労士・井口勝己の労務Q&A(1/2 ページ)

» 2022年12月27日 12時00分 公開
[井口克己ITmedia]

連載:社労士・井口克己の労務Q&A

労働法に詳しい株式会社Works Human Intelligenceの社労士・井口克己氏が、労務関連の素朴な疑問を解決します。

 今年の冬のボーナスは、コロナ禍の不況の影響が和らぎ、前年より増額した企業が多いようです。経団連の発表によれば、大企業が支給するボーナスの平均額は前年に比べ8.92%増の89万4179円で、3年ぶりの増加となりました。ボーナスが増えて気持ちにも余裕ができた人が多いのではないでしょうか。

 先日、あるIT企業の若手社員から「今年はボーナスが増額されて嬉しかったが、ある先輩社員から『ボーナスが上がるより毎月の給与が増えた方が良い』と聞いた。正直、年間でもらえる金額が同じなら、給与でも賞与でもどちらでも構わないと思っているが、実際に違いがあるのか?」と質問をもらいました。

 年間の収入が同額でも、給与と賞与の割合が違うことで、所得税や社会保険料の総額に差異はあるのでしょうか。また、将来の年金やいざというときの保険給付にはどのような影響があるのでしょうか。気になるところですよね。

photo 画像はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

 そこで、年収が同じで「全額が給与、賞与なし」「3分の2を給与、3分の1を賞与」として受け取った場合、所得税や社会保険料、保険給付にどのような影響があるかシミュレーションしてみました。

健康保険料(介護保険含む):年間総額に大きな差は生まれない

 健康保険料は、給与は標準報酬月額、賞与は標準賞与額と保険料率で保険料が決まります。保険料率は、57.25/1000(※1)、給与と賞与で同じものを利用しています。給与や賞与が増えるとそれに応じて保険料も増えていく仕組みです。ただし、いくらでも増えていくわけではなく上限額があります。給与は135.5万円、賞与は年間573万円を超えると保険料は一定になります。

 保険料率が給与と賞与で同じなので、給与と賞与の割合が異なっても、保険料の年間の総額に大きな差は生まれません。

 保険料率は加入している健康保険組合、地域によって異なります。今回は協会けんぽの東京都の保険料率(介護保険含む)を利用しました。

厚生年金保険料:「年収762万円」が分かれ目

 厚生年金保険料の決まり方も、健康保険とほとんど同じですが、保険料率と上限の金額が異なります。保険料率は91.5/1000、上限額は給与が月63.5万円、賞与は1回150万円で、年収に換算すると762万〜1062万となります。

 保険料率は健康保険の約1.5倍ですが、上限は約2分の1となります。年収が762万円(=63.5万円×12)までは、賞与の割合によって年間の保険料に差異はありません。

 文書の説明だけでは分かりづらいので年収別に、賞与なしと、賞与あり(1回給与3カ月分、年2回)の場合で保険料の年間総額にどの程度の差があるか一覧にしました。

 年収360万と450万まではほぼ同じか、数千円の違いしかありませんが、850万以上になると数万円から10数万の違いが発生します。年収850万円を給与と賞与で分けて受け取ると、給与も賞与も上限額の中におさまるので年収分の全額が保険料の対象となりますが、全額を給与で受け取ると厚生年金の標準報酬月額上限額を超え年収762万の人と同じ保険料となるためこの差異が発生します。

 このことから年収が762万を超える社員は、給与を標準報酬月額の上限を超えるようにして、賞与分を少なくした方が、年間の保険料が少なくなります。

年収(万 賞与月数(1回分) 給与 賞与 保険料(月額) 保険料(賞与) 保険料(年額)
360 0カ月 30万 0 4万4625 0 53万5500
360 3カ月 20万 60万 2万9750 8万9250 53万5500
450 0カ月 37万5000 0 5万6525 0 67万8300
450 3カ月 25万 75万 3万8675 11万1562 68万7224
850 0カ月 70万8333 0 10万122 0 120万1470
850 3カ月 47万2222 141万6668 6万9912 21万630 126万210
1000 0カ月 83万3333 0 10万6992 0 128万3910
1000 3カ月 55万5555 166万6670 8万3300 23万2628 146万4856
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