どちらが得? 「ボーナスはあるが月給は低い」と「月給は高いがボーナスはない」社労士・井口勝己の労務Q&A(2/2 ページ)

» 2022年12月27日 12時00分 公開
[井口克己ITmedia]
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所得税:給与の割合が高い方が、手元に残るお金が多い

 所得税は、年末調整によって年間分が清算されるため、課税対象額が同じなら給与と賞与の割合によって年間の税額に差が出ることはありません。しかし、社会保険に加入している場合は社会保険料は課税対象額から控除されます。先述したように、賞与の有無によって年間の社会保険料の総額に変動があるので、所得税も異なることとなります。

 年収別に、(1)賞与なしと、(2)賞与あり(年2回、1回給与3カ月分)で年税額の比較した結果を一覧にしました。賞与がある方が、年間の社会保険料が多くなるため課税対象から控除される年税額は少なくなります。

 さらに、社会保険料と年税額を合算した負担額を比較すると、賞与がなく給与が多い方が総額が少なくなります。同じ年収であれば給与の割合が高い方が手元に残るお金が多くなることが分かります。

年収(万) 賞与月数(1回分) 給与 賞与 保険料 年税額 合計
360 0カ月 30万 0 53万5500 7万2600 60万8100
360 3カ月 20万 60万 53万5500 7万2600 60万8100
450 0カ月 37万5000 0 67万8300 10万4700 78万3000
450 3カ月 25万 75万 68万7224 10万3800 79万1024
850 0カ月 70万8333 0 120万1470 55万7500 175万8970
850 3カ月 47万2222 141万6668 126万210 54万5500 180万5710
1000 0カ月 83万3333 0 128万3910 84万7100 213万1010
1000 3カ月 55万5555 166万6670 146万4856 81万100 227万4956

※控除は基礎控除のみで試算しています。

年金:年収が高いと賞与がある方が年金額が高く

photo 画像はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

 ここまでは、給与や賞与から控除されるものを比較してきました。ここからは、社会保険の給付の面でも比較してみます。社会保険にはさまざま給付がありますが、今回は、将来の年金額にどのような影響があるか試算してみます。

 年金額の算出には厚生年金加入期間の給与と賞与を平均化した平均標準報酬が必要となります。加入期間は40年以上にもなり、その間には給与と賞与の金額が変動することが考えられますが、そのようなシミュレーションは難しいので、今回は40年間全く同じ、給与、賞与であったとして老齢厚生年金の報酬比例部分を試算しました。

 結果としては、年収が少ないと賞与の有無によって年金額に差異は少なく、年収が高くなると賞与がある方が年金額が多くなりました。これは、年収の高い人が給与だけで受け取ると標準報酬月額が上限額となるので、実際の年収より平均標準報酬額が低くなることで発生する差異となります。

年収(万) 賞与月数(1回分) 標準報酬月額 標準賞与額 年金報酬比例
360 0カ月 30万 0 73万8751
360 3カ月 20万 60万 73万8751
450 0カ月 38万 0 93万5751
450 3カ月 26万 75万 94万8064
850 0カ月 65万 0 160万627
850 3カ月 47万 141万6000 173万8528
1000 0カ月 65万 0 160万627
1000 3カ月 56万 150万 199万4628

まとめ:結局どちらが「得」なのか?

 年収が762万以下の場合は、所得税と社会保険料の年間の総額に大きな差異はありません。それ以上になると年間の総額に差異が発生します。直近の手取り額という観点で見れば、給与が多い方が年間の手取り額が多くなります。しかしながら将来に備えるという観点でみると、賞与が多い方が将来の金額が多くなります。

 同じ年収で給与が多い方が得か、賞与が多い方が得かということについては、今お金が必要なのか、それとも将来に向けて備えたいのか、人それぞれのライフプランによって最適解が異なります。

 今回のシミュレーションでは取り扱わなかった、保険料や保険給付についてもまとめておきます。どの給付も給与を基準に給付額が決まるので、いざというときのことを考えると賞与よりも給与が多い方が安心と言えます。

 給与と賞与の割合は社員の希望で変えられるものではないので、こんな分析に意味はないと思われる方もいることでしょうが、最近では選択型の退職金制度(DCやDB)が普及しています。給与や賞与からどの程度を退職金に充てるか選択することは給与と賞与の割合を変更することと同様の効果があります。この分析を参考に将来のライフプランを考えるきっかけになれば幸いです。

項目 説明
住民税 所得税と同様の結果となります。
健康保険給付 多くの給付が標準報酬月額から算出されます。賞与分は一切考慮されないので、給与が多い方が有利になります。
しかし、医療費が高額になったときに支払われる高額療養費は、標準報酬月額が高いほど、支払をうける基準額が上がります。
結果、給与が高いと給付も多いが、自己負担も多くなります。
雇用保険料 雇用保険料は上限額がなく、給与も賞与もどちらにも同じ保険料率を乗じて保険料を算出するので、給与と賞与の割合による差異はありません。
雇用保険給付 雇用保険料の各種給付は給与の金額をもとに算出されます。賞与の金額は一切考慮されないので、給与が多い方が有利になります。しかし、賃金基礎額は40万から50万程度で上限となるので、それ以上はどれだけ給与が高くても加味されません。
(失業給付、育児休業給付、高年齢雇用継続給付、介護休業給付金)
労災保険 労災保険の各種給付は労基法の平均賃金をもとに算出されます。賞与の金額は一切考慮されないので、給与が多い方が有利になります。

著者プロフィール

井口克己(いぐちかつみ) 株式会社Works Human Intelligence WHI総研フェロー

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神戸大学経営学部卒、(株)朝日新聞社に入社し人事、労務、福利厚生、採用の実務に従事。(株)ワークスアプリケーションズに転職しシステムコンサルタントとして大手企業のHRシステムの構築・運用設計に携わる。給与計算、勤怠管理、人事評価、賞与計算、社会保険、年末調整、福利厚生などの制度間の連携を重視したシステム構築を行う。また、都道府県、市町村の人事給与システムの構築にも従事し、民間企業、公務員双方の人事給与制度に精通している。現在は地方公共団体向けのクラウドサービス(COL)の提案営業、導入支援活動に従事している。その傍ら特定社会保険労務士の資格を生かし法改正の解説や労務相談Q&Aの執筆を行っている。

株式会社Works Human Intelligence

人事管理、給与計算、勤怠管理、タレントマネジメントなど人事にまつわる業務領域をカバーする大手法人向け統合人事システム「COMPANY」の開発・販売・サポートを行うほか、HR関連サービスを提供している。COMPANYは、約1200法人グループへの導入実績を持つ。

全てのビジネスパーソンが情熱と貢献意欲を持って「はたらく」を楽しむ社会の実現を目指す。

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