男女の賃金格差、なぜ埋まらない? 「仕方ない」論が見落とす2つの視点(3/3 ページ)

» 2023年09月22日 07時30分 公開
[やつづかえりITmedia]
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格差を「仕方ない」と放置してはいけない

 ここまでを読んで「それなら仕方ない」と感じる人もいるだろう。「働く時間が短いならもらえる給料が少ないのは当然だし、管理職と平社員、正社員と非正規社員で給料が違うのだって当然だ。女性が男性と同じだけ働いて、がんばって昇進すればいいだけの話じゃないの?」と。

 この「仕方ない」という捉え方には2つの問題がある。

 一つは「女性が男性と同じだけ働き、それによって昇進する」ということが難しい理由に目を向けていない点だ。

 育児や介護の負担が大きく男性と同じだけ働くことが無理な女性がいることや、「女はいずれ辞めるから」とか「女性にはこれは無理だろう」といった差別や無意識のバイアスによって、正当な評価やチャンスを与えられない女性がいることを無視している。

 この問題を乗り越えるには、男女の性別役割分担意識への働きかけや、女性により積極的にチャンスを提供していくポジティブ・アクションなど、社会や企業の努力が必要だ。

 もう一つの問題は、経済的に自立ができる程度の収入を得られない女性が多いという状況を、仕方ないものとして受け入れてしまっている点にある。

 一家の大黒柱たる男性が家族を養うものとされていた高度経済成長期は、男性社員に対して家族手当なども含む十分な待遇を与える会社が評価された。と同時に、学生アルバイトや主婦パート、“寿退社”する前の若い女性社員などの低賃金は、問題視されなかった。彼らの生活に必要なお金は父親や夫が出すもので、働くのはあくまで趣味や家計の補助のため、と考えられたからだ。

男女格差 (ゲッティイメージズ)

 しかし今は違う。男性一人で家族の生活を支えるのが難しくなっているし、独身のまま過ごす人や離婚する人も増えている。非正規の職にしか就けないけれど、自分で学費や生活費、子どもの教育費を稼いでいかなければならない人たちが増えている。

 この状況を放置することは、彼らの現在の生活を苦しめるにとどまらない。今の収入が低ければ、将来受け取れる年金額も低くなり、老後の生活に苦しむ人も増えるだろう。子どもたちが十分な教育機会を得られないなど、次世代への影響も懸念される。

 これは女性に限らず、氷河期世代の男性なども直面している問題だ。男女の賃金格差を解消しようという努力が、正規・非正規社員間の格差の是正や、生活していくことが可能な最低賃金の実現という方向で実を結び、誰もが安心して生きていける社会になることを願う。

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