小売業は「2050年問題」にどう立ち向かうべきか 王者ウォルマートの戦略から読み解く「モノを売る」だけの時代は終わった(2/3 ページ)

» 2023年09月29日 05時00分 公開
[佐久間 俊一ITmedia]

(1)ヘルスケア事業

 23年3月、店舗に併設するヘルスケアセンター「ウォルマート・ヘルス」を28カ所開設し、全米で75カ所まで増設していく計画を発表しました。米国では、安価な医療を受けられる機会や医師の不足が深刻な課題になっています。そこで、プライマリーケア・歯科・聴覚・視力検査サービスなどの幅広いヘルスケアセンターを新設していく予定としています。

(2)金融・保険事業

 22年1月、メタバース時代の到来に備え、独自の仮想通貨と複数種の非代替性トークン(NFT)の発行を準備していることが、米特許商標庁への商標登録出願で明らかになりました。保険事業では、20年7月に保険代理店「ウォルマート・インシュアランス・サービス」を立ち上げています。

(3)リテールメディア事業

 ウォルマートの強みである膨大な顧客接点を生かした事業です。昨今は店舗など、オフラインのデータ価値が向上しています。そこで、店舗やEC、アプリ上に広告サービスを展開。メーカーから広告費を得ることで、新たな収益の創出につなげています。22年の広告売上は約3800億円(前年比40%増)と、かなりの規模にまで成長している事業です。

(4)エンターテイメント事業

 22年8月から、メディア・娯楽大手のパラマウント・グローバル社と協力し、自社の有料サービス会員に向けて パラマウントのストリーミングサービスを提供しています。対象はウォルマートの有料サービス「ウォルマート+(プラス)」会員です。月額4.99ドルで「パラマウント+(プラス)」を利用できます。明確に「Amazon Prime」を意識した施策といえるでしょう。小売・エンタメ・決済(金融)・広告などを密接に関連させ、小売業+サービス業という図式で顧客のエンゲージメントを高める意図がうかがえます。

(5)知財事業

 ウォルマートは、13年から特許の出願件数が急伸しています。IFI CLAIMS Patent Services社の調査によれば、ウォルマートの出願数は、20年時点で「S&P100」構成銘柄のうち2位になるほどで、件数にして905件です。特許の内容としては「その場でスキャン&ゴーできる自動チェックアウトシステム」や「店内の売場・商品を検索するナビゲーションシステム」からAI・ドローンなど、もはや小売業というよりもIT企業のような様相を呈しています。

 知財戦略を強化する動きは、競合他社に対する防御のみにとどまらないはずです。オープン化やITソリューションとしての販売も視野に入っていることと予想します。つまり、従来はB2C企業だったウォルマートが、B2Bで収益を生み出す流れができていくのです。今後はこうした、かつての小売業からは想像もできないような市場へ各社が参入していく例も増えていくことでしょう。

グローバルに打って出るためのヒントとは?

 冒頭で提示した本稿で解説するテーマのうち、ウォルマートの例を示しながら「新たなビジネス価値を付加する」について説明してきました。ここからは「グローバル市場を強化する」について見ていきます。国内市場が縮小を見せている日本では、グローバル市場へ打って出ることが重要です。では、どのようなビジネスが有望なのでしょうか。

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