アース製薬の「G専用脱出ゲーム」 70万人を魅了した、細かい仕掛けの数々アース製薬からの脱走

» 2023年10月04日 08時30分 公開
[熊谷紗希ITmedia]

 昨年の夏に引き続き、アース製薬がおかしな企画を立ち上げた。

昨年の夏に話題を呼んだ、アース製薬のインスタグラム

 昨年はインスタグラム公式アカウントを新たに開設し、ゴキブリ目線で切り取った日常を「G劇場」と題し、投稿。人間に襲われたであろう瞬間の写真に「急に明るくなったと思ったらバケモンに襲われた」と焦る様子や、人間の食べ残しの写真に「久しぶりに食べるご飯うますぎる。感謝」といった発言など、まるでG(ゴキブリ)がスマホの向こうにいるかのような想像を掻き立てられる企画が話題を呼んだ。

 インスタグラムのコメント欄にはGを応援するようなコメントも見られ、嫌われ者が脚光を浴びるというなんともおかしな世界だった。

 今回の企画は、話題となったインスタグラムのスピンオフとして生まれたという。

 企画タイトルは「アース製薬からの脱走」で、G専用の脱出ゲームだ。特設サイトに行くと、まず「ゴキブリ以外の方のアクセスは固くお断りいたします」と警告が表れる。どうやらG以外は先に進めないようだ……。

悪い顔をしたアース製薬社員たちがこちらを見ている……(画像:以下、アース製薬提供)

 ゲームの設定とは言えGだと自認したくないが、先に進めないので仕方がない。しぶしぶ「はい」を押して先に進むと、悪役感満載のアース製薬の研究員が出迎えてくれる。

 プレー説明によると、Gとなったプレイヤーが家の中に落ちている4つの食べ物を食べて脱出を図るというシンプルなものだった。しかし、家の中には同社のG対策グッズがあったり、家主がゴキジェットプロで応戦してきたりもする。

家の中を探索できる(左)、何かを仕掛ける家主(右)

70万人がプレイ 芸の細かさに驚くユーザー続出

 Gが大嫌いな筆者も実際にプレイしてみた。操作は移動、ジャンプ、視点移動などがあり意外と本格的だ。ジャンプで壁をよじ上ったり、移動と組み合わせることでドリフトのような動きもできたりする。

臨戦態勢の家主

 家主にゴキジェットプロで成敗されながら必死に家の中を走り回っていると、そこかしこにアース製薬の商品っぽいものが映りこんでくる。それ以外にも、家主のTシャツに「強く想うことは実現する」とプリントされていたりと、発見やツッコミ要素が多い。

 「特設サイトやゲーム内に思わずツッコミたくなるポイントをたくさんつくりました。どこが切り取られてSNSでバズるか分からないので、なるべくその要素をたくさん盛り込みました」(マーケティング総合企画本部 コンシューマーマーケティング部 マーケティングコミュニケーション課 課長 稲積大輔氏)

 斬新な企画や細かい仕掛けにユーザーが反応し、SNSでどんどん話題になった。現在(9月19日時点)でプレイ人数は70万人、プレイ回数は80万回、240万アクセスを記録している。

 プレイ回数がプレイ人数を10万も上回っているという実績からも分かるように、難易度設定も絶妙だ。「素人であれば1回ではまずクリアできないと思います。しかし、絶対にクリアできないほどではない難易度に設定しました」という。

 G専用の脱出ゲームに「玄人」なんているのか……? という疑問は置いておいて、確かにプレイ当初は「ひい! 触覚が映って気持ち悪い!」とビクビクしていた筆者も「絶対にクリアしてやるからな……!」とまんまとアース製薬の策略にハマってしまった。

お口クチュクチュしている家主にバレないように移動だ!

 筆者同様、中毒になったユーザーも多かったようだ。「X(旧Twitter)での投稿がバズったことをきっかけにアクセスが集中し、サーバーがダウンしました。アース製薬の公式Webサイト全体がつながりにくく、ご迷惑をおかけしましたが、多くの方にプレイしていただき、社内や取引先からも『アース製薬はおもしろいことをやっているな』と認識いただけたと思っています」(稲積氏)

嫌われ者を「イジる」工夫 

 アース製薬の企画は確かに斬新でおもしろいが、コンテンツがコンテンツなだけに一瞬で消費者の「嫌悪」につながる危険性も孕(はら)んでいるように思う。一度ネガティブイメージがついてしまえば、商品にも飛び火する可能性もある。その辺りはどのように工夫しているのだろうか?

 「インスタグラムのG劇場にも共通して言えることですが、Gは見たくない虫の代表格です。なので、フォロワーさんには姿形を見せないようにしています。姿を見せないでいかにGを意識させるかが、G対策商品の認知獲得のカギになっています」(稲積氏)

 言われてみれば非常に納得感のある回答だ。G目線でのインスタグラム投稿に、今回の脱出ゲームではGの着ぐるみを着用した人が叫んだり、文句を言ったりしながらゲームをプレイする様子を公開している。「逃げ惑うおもしろくてかわいそうなG」というイメージを見ている側が勝手に補完できるようにしているのだろう。

 さて、最後に筆者のゲーム進捗を共有したい。無事に脱走できたのだが、ブラックキャップを食してしまったことで脱走後に息絶える結果となった……。ブラックキャップを食べないと餌の数的にクリアできない(?)し、ただブラックキャップを食べたので近い未来必ず昇天するというおそろしいトリックだ。アース製薬、謀ったな……。

脱走成功画面。ここにたどり着くまでが長い……

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