マーケティング・シンカ論

「細長いボトル」VS.「幅のあるボトル」 どちらが高級と感じる? 知られざる人間の心理ビジネスの身近な「なぜ」を解明(1/2 ページ)

» 2023年09月27日 08時00分 公開
[ほしのあずさITmedia]

 「行動経済学」という学問をご存じだろうか。聞いたことのある読者もいれば、初めて耳にする読者もいるだろう。人間が自分の利益のために合理的に動くことを前提とする経済学に対して、行動経済学は時に非合理的なありのままの人間を理解し、消費者の行動をひも解く学問だ。

 人間は日々の生活において必ずしも「合理的な」意思決定をできているわけではない。「なぜかいつも買ってしまう商品」「なんとなく良いイメージを持っているブランド」など、言語化できない購買行動や意識は存在する。行動経済学は消費者の「なんか良い」センサーを刺激する学問として、ビジネスの世界でも活用が広がってきている。

 今回、私たちの身近にあるビジネスの疑問を行動経済学の観点から読み解いてみたい。米・オレゴン大学にて行動経済学の博士課程を修了し、現在は行動経済学コンサルタントとして欧米や日本で活躍する相良奈美香さんに話を聞いた。

 例えば、ここに形の違う2つの水のボトルがあるとする。Aのボトルは細長く、Bのボトルは低くて幅がある。これらを比べた際、どちらに「高級感がありそう」という印象を抱くだろうか?

水 A、Bのボトルに抱く印象は?

どちらに高級感を覚える?

 答え合わせに移ろう。「Aの方が高そう」と感じる読者が多いのではないだろうか。

 人間は無意識のうちに、細長いものに高級さを、低くて幅のあるものに気楽さを感じるという。こちらも前回の「アップルのロゴはなぜ上の方にあるのか?」と同様に、重力が関係している。人間は重力から抜け出せないため、重力に逆らっているものに「すごい」という感覚を抱くとのこと。これは人間のDNAに刷り込まれている感覚なので実際には無意識なのだが、これらを実験などにより解明するのが行動経済学だ。

 「例えば、会社の組織図も上が社長で、その下に専務、その下に社員と下に向かって広がるケースが多いですよね。下からでもいいはずなのに社長を一番上にするのは、上に力を感じるからです」(相良さん)

 そのため細長いボトルはリゾート地など高級感をウリとしている場所で、日常を連想させる背の低いボトルはコンビニなどの身近な場所で販売すると効果的だという。

店頭で販売されているヤクルト1000。細長い形状になっている(画像:ヤクルト公式Webサイトより)

 この行動経済学的観点が反映されたかもしれない商品として、ヤクルトとヤクルト1000に注目したい。

 「なじみのあるヤクルトは低くてぼてっとした形をしていますが、ヤクルト1000はスリムで高さもあり、どこか高級感が漂っています。ヤクルト1000の高めの価格設定にもかかわらず、反発を生みにくかった理由はこの高級感があったのではないでしょうか」(相良さん)

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