政府の雇用支援、どれも上すべり 賃金アップ、年収の壁解消……真の目的は「現状維持」?働き方の見取り図(2/4 ページ)

» 2023年10月11日 07時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]

 会社が正社員と呼ばれる雇用形態で新たに採用する場合、一度採用すれば定期昇給などで支払う賃金は上がり続ける一方、能力不足を理由に解雇することはできません。それだけに会社としては慎重になります。採用するには、戦力として活躍してくれるだろうと確信を得る必要があるのです。

 お金さえかければ講座内容は充実させられますし、キャリア相談にも乗れます。しかし、そこから転職へとつなげる段階でそびえるハードルの高さは次元が異なります。少なくともその前に、業務委託や人材派遣事業者が運営するチームの中で業務をこなしながら実務経験を積むとか、実務に相当するインターンシップ研修などを経て即戦力性を高めるといったステップを加える施策が求められます。

見かけ倒しの「最低賃金1500円」

 経産省がWebエンジニアなどと同じく取り上げていた介護職は、もともと人手不足感が強く、リスキリング予算を投じる前から未経験者への門戸は開かれていました。

 しかし、介護はホスピタリティといった素養や職務に対するモチベーションなどを持ち合わせていない人が継続できる仕事ではありません。重要なのは、介護職として働くことのやりがいや喜びなどの周知、給与条件の向上といった仕事自体の魅力を高める取り組みです。

写真はイメージ(ゲッティイメージズ)

 政府はリスキリングの他にも、男性育休の取得促進や女性管理職比率および女性役員比率を2030年までに30%、最低賃金を30年代半ばまでに1500円に引き上げるといった目を引く施策をいくつも掲げています。

 ただ、男性育休であれば、ほんの数日取得するいわゆる「とるだけ育休」でも取得率を上昇させられます。また、女性管理職比率30%はそもそも20年までに達成するはずだった数字です。比率は年々ジリジリと上昇し続けており、仮に30年に達成できなかったとしても、理由をつけてのらりくらりと先延ばしできてしまうのなら、いずれ到達する数字でしょう。

 最低賃金についても、ここ数年の上がり幅を考えれば、1500円はその延長線上に過ぎません。30年代半ばまでの達成を目指すということですから、仮に35年に1500円へ到達するならば、来年以降毎年3.4%上昇していく計算です。物価高によるコスト増で利益が出しづらい中で極端に最低賃金を上げてしまうと採用意欲を冷やす懸念はあるものの、22年から23年の上昇幅が約4.5%であることを考えると、あくまで机上の計算としては不可能ではありません。

 つまり、いま政府が掲げている雇用周りの施策は、一見踏み込んだ内容に見えて、根本的な構造を変革しないままいまの延長線上で到達できる目標でしかないのです。もちろん、会社によっては厳しい状況に置かれる場合もあり、目標達成には一定の工夫や努力は必要ですが、基本的にはいまの雇用周りの仕組みを守り維持しつづけたまま、多くの会社が達成可能な範囲の目標ということになります。

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