政府の雇用支援、どれも上すべり 賃金アップ、年収の壁解消……真の目的は「現状維持」?働き方の見取り図(3/4 ページ)

» 2023年10月11日 07時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]

本当の目的は現状の仕組みを変えないこと?

 政府が10月に発表した「年収の壁」対策も、25年に行われる年金制度改正までのつなぎです。現時点においては、やはり現状維持の施策となっています。これら一連の取り組みを見ている限り、本当の目的は現行の雇用周りの仕組みを変えないことであり、それをカモフラージュしようとさまざまな施策を走らせているようにさえ見えます

 ただ、現行の雇用周りの仕組みにはさまざまなゆがみが表れています。能力不足を理由に社員を解雇できないという重しがある限り、会社は採用に慎重にならざるを得ません。もし、もっと頻繁に労働移動が行われるような仕組みに変えていくのであれば、会社が思い切って採用した人材の能力が不足していたと判明した場合には、相応の金銭保障の下に解雇できるといったリスクヘッジできる制度の検討が必要です。

 また、男性の育休取得を促進するには、人々の価値観が移り変わるのをただ待つのではなく、学校教育で育児や家事に関するカリキュラムを家庭科の授業に組み込むなど、子どものころから男性の認識を変えていくような積極的な取り組みも検討の余地があるはずです。

写真はイメージ(ゲッティイメージズ)

 さらに、誰かが休めば業務が回らなくなるようなギリギリの人員体制ありきの考え方から、育休や有給休暇などで社員が休むことを前提にした人員体制を確保した上で、かつ生産性を上げていける職場づくりへと切り替えるよう促す施策なども求められます。

 残念ながら、いま政府が走らせている施策には、これら雇用周りの仕組み改善にまで踏み込んだ取り組みがほとんどありません。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.