そごう・西武は「対岸の火事」ではない 61年ぶりのストライキから学ぶべきこと小売・流通アナリストの視点(3/3 ページ)

» 2023年10月12日 07時00分 公開
[中井彰人ITmedia]
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61年ぶりのストで学ぶべきこと

 ただ、経営陣の不誠実な対応がこのような大問題に発展したのは当然だが、従業員側も、そごう・西武という組織からいずれは移動しなければならないことはほぼ分かっているのではないか。

 ヨドバシが不動産取得した3店舗でも、百貨店売場はヨドバシが必要とする売場の残りなので、半分以下に減少する可能性は高い(池袋ほど売場が広くない渋谷、千葉はヨドバシの売場が占める割合がかなり高くなる可能性がある)。そごう・西武が不動産ファンドの子会社になってしまった以上、今後の従業員の生活を考えるなら、雇用の縮小に追い立てられる前に、自らが選択権を行使する方向へ準備を進めることが重要なことなのだと思うのである。

st 雇用の縮小に追い立てられる前に従業員がやるべきこと(編集部撮影)

 筆者は、ライフワークの1つとして起業支援という仕事にも関与しているが、ここで接点を持っている自治体関連の企業支援担当者に、大手百貨店から転じて来た人がいる。30代の彼は傾きつつある百貨店業界から転じて、今は起業家の公的支援を担当する仕事で頑張っており、傍目に見ても生き生きとしているように見える。

 まだ30代だったからそんな身軽な方向転換ができるのだ、というご意見もあるとは思うが、全く畑違いの仕事に飛び込んでくるには、相当なエネルギーが必要であったはずである。しかし、百貨店に限らず、会社に人生の選択肢の全てを預ければ、人生のリスクを高くするのは確実なのだ。

 筆者もメガバンクに長く勤めたが、金融危機の際に大銀行がいくつも経営破綻したのをみて、今世紀になる前から、この組織からいつでも脱出可能な準備と覚悟を整えていたことを思い出した。たまたま、希望する調査部業務への異動が実現して長く続けられたため、退職独立したのは16年だったが、会社にオプションを持たれないように準備することの大事さは、身をもって知っているつもりだ。

 そごう・西武のストライキに他社労組の応援があった、というのは他社百貨店の従業員としても、雇用の維持には危機感を持っているということなのであろう。そごう・西武に関しても激変緩和措置は用意されるようで、また他社百貨店においても雇用への影響が顕在化するのには、まだ時間が多少ありそうだ。

st ストライキの様子(編集部撮影)

 この間にぜひ、自らの今後の人生を今の企業とともに歩むことが望ましいのかどうかについて見直し、勤めている会社を再評価していただきたいと思う。会社と従業員個人は、最終的には利害が対立するものなのであり、会社側に自らの人生の選択権を渡してはならない、と強く思うのである。従業員個人が会社を一方的に信頼することなど禁物であり、会社側は圧倒的に優越的地位にある上に、冷たい……というより無感情である、ということを忘れてはならない。

著者プロフィール

中井彰人(なかい あきひと)

メガバンク調査部門の流通アナリストとして12年、現在は中小企業診断士として独立。地域流通「愛」を貫き、全国各地への出張の日々を経て、モータリゼーションと業態盛衰の関連性に注目した独自の流通理論に到達。


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