PayPay証券、最後発からどう巻き返す? 投資初心者との「最強のタッチポイント」生かす新NISA迫る(2/2 ページ)

» 2023年10月13日 13時05分 公開
[斎藤健二ITmedia]
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「ポイント運用」は後発ながら業界トップ。なぜ?

――ポイント運用という方法で、投資のハードルを下げてきた。後発ながら、業界トップの利用者数となっている。

 お客様から好評をいただいて1200万人超が利用するようになった。投資に対して不安にならないような工夫をいろいろやっている。例えば、ポイント運用ならやってみようと考える初心者の人たちに、分かりやすいように工夫している。例えば、初心者の方に見せるのは日経平均やS&P500のチャートではないと思っている。

 投資というとき、これまでは株式投資だとかトレーディングがメインだった。しかし今後主流になっていく資産運用を考えると、果たして日本株の取引手数料が無料だということが、どれだけの意味があるのか、魅力があるのかと考えるお客様もいる。資産運用は、自分が取れるリスクの中で商品を多様化して分散してポートフォリオを組んで、長期で見ていくものだ。

 リサーチを重ねていく中で、やっぱり投資はよく分からない、怖いものだという思いが多くの方にはまだあることが分かっている。これまでメガバンク、地銀、大手証券が20年以上かけて「貯蓄から投資へ」とやっても投資に動かなかった背景には、資産運用に対する根強い不安感がある。金融教育も含めて、いかに分かりやすく、ハードルを下げていくかが重要だ。

 ポイント運用の成功から得られた知見はかなりある。ハードルを下げた体験を提供すると、それをきっかけに証券口座を開設いただき、本格的な金融取引をやってもらえる。

ネット証券“大手5社”という呼ばれ方を変えていきたい

――口座数は3月末で52万2000口座と、競合他社にかなり水をあけられている。PayPayの利用者が6000万人に達している中で、この数字をどう評価するか。

 まだまだだ。口座数はこの2年で3倍になり、昨年度以上の伸び率で増えている。顧客から支持を得ているが、PayPayのプラットフォームの活用としてはまだまだ足りていない。

 証券口座の開設には、本人確認が大きなボトルネックになっている。今後、PayPayと連携して口座開設が簡単に行えるようにする仕組みも、大きな構想としては持っている。

PayPay証券の口座数は、PayPayグループに入った21年2月から急速に拡大してきている

――NTTドコモ経済圏入りしたマネックス証券は、現在の220万口座から、3年で500万口座を目指すとしている。同規模のPayPay経済圏をバックに持つPayPay証券も同レベルを目指すのか。

 数年後の目標は外部には話していないが、昨年度末の52万口座はまったく良しとしていない。PayPayと組んで事業を行うというのは、ナンバーワンを目指してやっていくということだ。ネット証券の大手に肩を並べる規模を目指してやっていく。少なくともネット証券を呼ぶときに“大手5社”と呼ばれるところを、早く変えていきたい。

 ただし資産運用ニーズに応えていくのがわれわれの事業の目的なので、トレーダー層を集めて大きくなってきたところとは、単純に比較はできない。新NISAにおいて、資産運用の裾野が広がっていく中では、ナンバーワンを取りたい。

――SBI証券が推し進めた手数料無料化施策により、証券会社の収益モデルが変わらざるを得なくなってきている。各社、売買手数料に依存したモデルから、投信などの資産を預かって収益を得るアセマネモデルにシフトを進めているが、投信の信託報酬低下もあり、収益性が厳しい。今後、どのようにして収益を上げていくのか。

 手数料を取ったり、さやを抜いたりするのは短期的に利益があがる、利益率が高いモデルだ。さらに信用取引をやる人からは金利収入も得られる。これが従来のリテール証券会社のビジネスモデルだった。こうしたブローカレッジ手数料でやってきたところは、フローからストックへという流れにより収益モデル自体が大きく変わる。

 対して、ストック型の信託報酬によって収益を得るビジネスモデルは、中長期で考えていくことが必要だ。

 新NISAが始まる中では、信託報酬が安いインデックス投資から入っていくお客様が多いだろう。預金からどこに動かすかというと、手数料がかかり信託報酬が高いアクティブファンドよりも、ここ数年運用成績がよく、市民権を得たインデックス型の投信が選ばれるのは自然なことだと思う。

 ただし長期目線で見た場合は、インデックス投信だけでいいのかはお客様それぞれだ。新NISAが始まって資産運用が当たり前になったら、運用方法が多様化していくだろう。ストックモデルとはいえ、そこから得られる収益も変わり、口座あたりの利益は上がっていくと考えている。

――インデックス投信だけではなく、違った付加価値を備えた収益性の高い投信も購入されると考えているのか。

 投資信託もインデックス型だけではない。バランス型もあるしアクティブ型もある。新NISA自体も成長投資枠では個別株も対象にされている。投資信託以外の運用商品を運用メニューとして入れていくニーズも出てくる。インデックス投信がメインである、現在の「つみたてNISA」とは違った光景が見えてくるはずだ。そのほかにもお客さまのニーズ次第で収益のオプションはある。

――どのような顧客ニーズを想定するか。

 当社は、現時点では投資初心者の方をターゲットとしている。そうした人たちにトレーディング性の高いハイリスク商品を勧める考えは全くない。ただし500万、600万口座の規模になってきたときには、いろいろなニーズが出てくるだろう。

 準富裕層には投資アドバイスも含めてワンストップで完結させるニーズもあるだろう。また既存の証券会社が収益ポイントとしている信用取引やFXを否定するつもりもない。現時点でわれわれが注力するのはそこではないということだ。

――PayPay単独で2025年に黒字化を目指すなど、グループ全体として収益化のプレッシャーが強いのではないか。

 数十万口座で利益化するのは、ストックモデルでは無理がある。われわれはまだまだ規模を拡大するフェーズだ。預かり資産額次第ではあるが、数百万口座は必要だろう。

筆者プロフィール:斎藤健二

金融・Fintechジャーナリスト。2000年よりWebメディア運営に従事し、アイティメディア社にて複数媒体の創刊編集長を務めたほか、ビジネスメディアやねとらぼなどの創刊に携わる。2023年に独立し、ネット証券やネット銀行、仮想通貨業界などのネット金融のほか、Fintech業界の取材を続けている。


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