MAPPA単独『呪術廻戦』大成功の一方で……「製作委員会方式」は本当に悪なのか?エンタメ×ビジネスを科学する(3/4 ページ)

» 2023年10月19日 08時00分 公開
[滑健作ITmedia]

なぜ、製作委員会方式は“叩かれる”のか

 では、なぜこれほど製作委員会方式がファンの間で批判されるのか。批判の内容はというと、権利や収益の分配が不公平で制作会社が報われないだとか、他社からの干渉によりオリジナリティーが損なわれるといった類のものだ。

 結論、これらの諸問題は製作委員会方式という手法に起因するのではなく、「アニメ」そのもののビジネスモデルや、市場環境の変化によるリスクの大きさ、企業間の強弱関係に起因するものだ。

 アニメも含めコンテンツビジネスは不確実性が高い。アニメ制作には数カ月から数年という長い期間を要し、その間に視聴者の嗜好(しこう)が変化するか、競合作品が現れる可能性がある。また、映像の放送や配信だけでは大きな収益をあげられないため、関連グッズの販売や海外展開にも依存しているが、いずれも成功するか否かは未知数だ。

 このような状況下では、一つの企業が単独でリスクを負い、アニメ制作からその後のビジネス展開まで行うのは困難だった。そこで、複数の企業が出資し、権利や収益と共にリスクを分散する製作委員会方式が拡がったという背景である。

 当然出資額が大きくリスクを負った事業者がその分リターンを受け、発言力も強まるため、企業規模が比較的小さいアニメ制作会社は大きなリターンを得にくく発言力も弱い構造となっていた。

 製作委員会方式という手法が悪なのではなく、製作委員会内での交渉力や出資規模によって、権力の勾配が発生しうることが問題なのである。

アニメ製作の「リターン」は増加している

 しかし、この状況は近年変化しつつある。リスクは変わらず大きいものの、リターンが大きくなりつつあるのだ。

 背景には海外での需要増があり、放送や配信、関連商品やライブイベントなどのビジネス展開が活発化している。

 日本動画協会の調査によると、19年度のアニメ関連市場規模は2兆円以上であり、このうち海外が1兆円以上を占める。

 20年度はコロナ禍の影響で制作規模縮小もあり減少したものの、21年度以降は回復傾向にあると同協会は予測している。

 海外からの収益増加の背景には、配信事業者の影響が大きい。特にNetflixやAmazonなどの大手配信事業者は日本のアニメに注目し、多数の作品を世界中の視聴者に届けている。

動画配信サービスで日本のアニメが世界で見られるようになった(写真はイメージ)

 世界中に正規のルートで作品が届けられることで海賊版に流出していた収益も正規のルートに乗り、物販やイベントにつなげられるようになった。

 これらの要因から、徐々に出資リスクが低減し、多数の企業でリスクを分散するのではなく、アニメ制作会社を含む少数の企業による出資、またアニメ制作会社を抱える単独グループによる出資という例が現れ始め、ついには制作会社による単独出資が実現したという流れである。

 MAPPAによる単独出資という事例は、「アニメ制作会社は大きな収益を得にくい」という業界の構図・定説を覆す可能性を秘めた大きなチャレンジといえる。

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