10月第2週は特異的な週だったのか、幕張のCEATECからパシフィコ横浜のCanon Expo、その間にはさまざまな発表会、記者会見があり、テック系記者は大忙しというよりも“取捨選択”をせねばならなかった。そんな中、テクノロジージャンルを得意とするジャーナリストの立場で、唯一、ドストライクで楽しめたのが、ソニー・ホンダモビリティの川西泉社長のグループインタビューだった。
この川西社長は、普通のクルマ担当記者では、なかなかうまく真意を引き出すことが難しい。それは記者としての能力や知識の問題ではなく、川西氏自身の思考や付加価値の源泉となる領域に、通常の自動車メーカーとは異なる視点があるからだ。
あまり強調しすぎると言葉が一人歩きしてしまうだろうが、誤解を恐れずに言えば、彼の頭の中にあるのは「ソフトウェア開発者たちがワクワクとした気持ちで面白がりながら、オモチャのようにEV向けのアプリやコンテンツ、サービスを開発したい」というプラットフォームだ。それはかつて川西氏が取り組んでいたプレイステーションの思想にも近い。
Unreal Engine 5(UE5)がサクサクとスムーズに動く高精細の超ワイドスクリーン。サブディスプレイも3系統あり、それらを支える最新のカスタムSoCは将来の発展も支える余裕あるスペック。さらに急進的な半導体技術の導入も検討中──。
そんな書き出しで始めると次世代ゲーム機の話が始まりそうだが、これはバッテリーEV(BEV)「AFEELA」の話だ。ソニー・ホンダモビリティが2026年春、北米から納車を開始する。
今年1月に米ラスベガスで開催されたCES 2023でお披露目したAFEELAプロトタイプ。先日、日本でも初披露したことは、いくつかのニュースでご存じの方も多いだろう。間近に迫っているCES 2024では、より具体的な戦略や他BEVとの違いについてニュースがあるようだが、その前に川西氏と話をする機会があった。
Unreal EngineはPCゲームを制作するためのツールやライブラリなどのセットだが、22年発表のUE5は、前バージョンのリリースから8年を経ていることもあって、大幅なアップデートとなっていた。
簡単に言えば、よりリアルで緻密な3Dモデルを極めて広いオープンスペースに展開してリアルタイムのアニメーションを描画できる。加えてリアルな照明効果を設定、描写できるため、映画のワンシーンのようなグラフィックスになる。
(注)オープンスペース:屋外の見通しの良い空間のこと。3Dグラフィックスで映像を生成する際、狭い室内や洞窟などでは描画するオブジェクト数が制限されるため処理しやすい。しかし屋外の都市空間などでは見通しがよく、描画要素が多い。このため、視点からの距離に応じてオブジェクトの複雑性を調整するなど効率的に処理するなどの工夫とともに絶対的な処理能力の高さも求められる
実際、UE5を用いて建築物のシミュレーションを構築したり、テレビ番組の再現ビデオを制作したり、巨大ディスプレイを用いたバーチャルスタジオの背景描画に使われたりと、ゲームの枠を超えたグラフィックスエンジンになってきた。「UE4とUE5では、もう全く表現できることが違います。だからAFEELAのグラフィックス表現はUE5を基本とすることにしました」(川西氏)
UE5を用いた表現は、フロントグリルのメディアバー、ダッシュボードに展開するパノラミックスクリーン、後部座席向けの2つのディスプレイに展開する。
ソニーは、UE5を開発するEpic Gamesに大型の出資を行っており、AFEELAの開発でも戦略パートナーになっている。しかしこれは、AFEELAのコンセプトや方向性を示す「ごく一部のエピソード」でしかない。
川西氏の最終的な目標は、当然ながらUE5を動かすことではなく「何か新しいことをやってみたい」という開発者の本能を刺激することにある。そのためには、最新の半導体技術を用い、革新的なアーキテクチャの採用にも意欲を見せる。
実は、まだAFEELAに搭載するハードウェア(あくまでソフトウェア処理を行う半導体側の話で、車体側の話ではない)は、最終的な仕様は決まっていない。「いつまで悩めるの?」という質問にお茶を濁した川西氏だが、(半導体チップ同士を接合して一つのチップのように動かす)チップレット技術について質問すると、反応が返ってきた。
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