10年代の半ばから後半にかけて、タピオカドリンクは若者を中心に社会現象と化した。この時も原材料費の上昇や人件費増加によるコスト高で、多くの店舗が価格を上げざるを得なくなった。また、皆がタピオカドリンクを飲んでいることで、その体験に対する希少性が薄れ、ブームは下火となった。
タピオカブームの教訓は、急速な人気の高まりで新規参入者が市場に殺到し、供給過多が進んだ結果、市場が飽和し、競争が激化したことだろう。これが収益悪化の要因となり、ブームの終焉を早めることとなった。
ブームの中で急成長する業界では、参入障壁が低くなりがちだ。タピオカブームではあまり美味しくないお店でもとりあえず商品は売れる状態だった。余談だが、筆者も「ハズレ」のタピオカドリンクを何回か購入したことがある。品質の低い商品やサービスが市場に出回り始めると危険信号だろう。
また、タピオカ飲料においては、糖質やカロリーが非常に高いという問題もあり、女性客を中心に懸念をもたらした可能性がある。このような健康に関わる懸念は、先述した通り、サウナ利用においても指摘されはじめている。
そんなブームの過渡期を乗り切る上で、カルディコーヒーファームの戦略をピックアップしたい。空前の円安相場の渦中で、輸入食品を中心に取り扱うカルディも大きな影響を受けている。
しかし、カルディは価格競争に巻き込まれることなく、店舗での体験価値を高める戦略を採用した。世界各国の珍しい食品を取り扱うことで、一般のスーパーマーケットでは入手できないような商品を掘り起こし、消費者に発見の場を提供した。消費者がカルディの商品に対して付加価値を感じることを意図していると考えられる。例えば、先月3年ぶりに復活した店頭での無料のコーヒーサービスは、商品のサンプリングを通じて消費者の購入を促進するという意味でその一環だろう。
カルディは上場しておらず、売上高の具体的な数値を知ることはできない。しかし、23年はリニューアルも含めて20店舗以上がオープンしており、円安の影響はどこ吹く風といった様相だ。カルディの例は、コスト増に直面した際、単純な価格転嫁や品質を下げる形でのコスト削減に終始するのではなく、顧客体験の向上や差別化戦略を通じて、その影響を最小限に抑え、業績を維持・向上させる方法を示している。
いずれにせよ、宿泊や複合レジャーではなく、サウナ専門店のようなサウナ一本で勝負するような施設において、質の高い独自サービス構築が求められる時期に来ている。楽観的にならず、ブームの終わりをも見据えておくことが今後のサウナブームにおける生き残りを左右することになるかもしれない。
1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Twitterはこちら
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