先述の通り、見なし残業を設定することは違法ではありません。
しかしながら、設定が残業80時間分など長時間になる場合はどうでしょうか。131時間分と設定して争った判例を確認してみましょう。なお、この判例では、給与の減額やパワハラなどについても争われましたが、固定残業代部分に絞って解説します。
(宇都宮地方裁判所 令和2年2月19日判決)
裁判所は、労働条件通知書の存在などから、職務手当が時間外労働131時間14分に対する対価として支払われるものとされていたことを認めました。
一方で、以下の通りとして効力を否定しました。
「本件固定残業代の定めの下では、労働者は…常軌を逸した長時間労働が恒常的に行われるおそれがあり、実際、…時間外労働時間数は1カ月平均80時間を優に超えているだけでなく、全26カ月中、時間外労働等が1カ月100時間を超える月は6カ月、90時間を超えている月になると17カ月にも上っていることなどに照らすと、…本件固定残業代の定めがあることは事実としても、その運用次第では、脳血管疾患及び虚血性心疾患等の疾病を労働者に発症させる危険性の高い1カ月当たり80時間程度を大幅に超過する長時間労働の温床ともなり得る危険性を有しているものというべきであるから、“実際には、長時間の時間外労働を恒常的に行わせることを予定していたわけではないことを示す特段の事情” が認められない限り、当該職務手当を1カ月131時間14分相当の時間外労働等に対する賃金とする本件固定残業代の定めは、公序良俗に違反するものとして無効と解するのが相当である。」
この裁判では「単純に何時間以上に設定しているからダメということではなく、実際にどのぐらい残業をさせるつもりだったか」という運用部分を確認しています。よって具体的な基準についてはハッキリしません。
ただし、この裁判は残業時間の上限が定められた19年4月(中小企業は20年4月)以前の勤務について争われたものなので、その点も注意が必要です。
現在は、時間外労働・休日労働に関する協定(いわゆる36協定)を締結しても、原則として月の残業時間上限は45時間です。超過した場合は6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。
特別条項を協定すれば、1年の内6カ月は45時間を超えられますが、それでも以下の3つの制約がかかります。
よって、現行法に照らすと100時間以上の設定は、その時点で公序良俗に違反すると判断される可能性があります。さらに、残業に対する社会の価値観もネガティブなものになっています。そう考えると80時間を超えるような設定は控えた方が良いでしょう。
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