初任給40万円超、でも残業80時間込み ベンチャーで増える給与形態、狙いや法的問題は?:裁判例を交え解説(3/3 ページ)
固定残業代を導入するか否かは経営判断ですが、設定する会社側の目的は主に以下の3つに集約されます。
- 人件費コントロール:「基本給30万円」と「基本給25万円+定額残業代5万円」であれば、どちらも総額30万円です。しかし会社側にとっては、毎月5万円分の残業代の支払いが免除され、残業代を支払う場合でも残業単価が下がるという効果が期待できます。また求人を出す場合でも、定額残業代部分を月給に含めて表示できるので採用においても有利に働きます。
- 未払い残業リスクの回避:最近、家具小売り大手のイケア・ジャパンが従来、労働時間としていなかった制服への着替え時間について取り扱いを改め労働時間に含むというニュースがありました。労働時間については、線引きが曖昧(あいまい)な部分があり、例えば自主参加型の研修や取引先への接待の時間を労働時間にすべきか否かは実に難しいところです。このようなリスクに備えて、ある程度の定額残業代を設定しておくと、万が一の場合の防波堤になる効果があります。
- 成果と連動した給与の支払い:労働基準法は「労働時間に対して給与を払う」という大前提で成り立っています。そのため、同じ成果を1時間で出せる人と2時間かかる人では、後者の給与が高くなってしまいます。同様に仕事の習得が遅く教育や訓練に時間がかかる人の方が、覚えの早い人よりも給与が高くなり、それが追加の教育を躊躇(ちゅうちょ)させることもあります。このようなときに固定残業代を設定しておくと、その枠内であれば給与に変動が起きず逆転現象を回避できます。
これらの3つの目的は重なり合って存在しますが、初任給における定額残業代80時間相当の設定は3つ目の趣旨が強いように考えられます。
昨今、働き方改革により労働環境は徐々に改善されている一方、その環境に物足りなさを感じる若者も一定数存在するようで「ゆるブラック」というフレーズも聞かれるようになりました。
リクルートワークス研究所が実施した「大手企業における若手育成状況調査報告書」においても以下のような結果となっており、成長実感が得にくいと考える若者は少なくないようです。
自身のキャリアへの関心が高い学生にとっては、スキル習得の時間がしっかり確保される環境は大切で、かつ固定賃金を押し上げる効果のある固定残業代は歓迎するところでしょうから、固定残業代を設定する新卒求人は一定の範囲で増えていくのではないかと思います。
もちろん、企業側は社会人経験がない学生に誤解が生じないように丁寧な情報発信が求められますし、何より適性に運用し健康への配慮を欠かさないことが必要でしょう。
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