AIを広告に利用するリスクは決して小さくない。AIによって生成した人物が実在の人物に酷似している場合、他人の肖像権や知的財産権を侵害するおそれがある。AIに任せていたとはいえ、実在する特定の個人に限りなく近いイメージが生成され、それに気付かず商用利用した場合、損害賠償責任を負うリスクもある。
今回ピックアップした「オタ恋」が起用しているAI製の男性タレントについても、お笑いコンビ「タイムマシーン3号」の関氏に酷似しているとファンやSNSユーザーからたびたび指摘を受けている(ただしこのケースの場合関氏はネタに昇華しており、特に大きな問題にはなっていない)。
とはいえ、仮に肖像権や商用利用に厳しい事務所のアイドルに酷似したクリエイティブをCMなどに起用してしまうと、故意・過失を問わず莫大(ばくだい)な損害賠償に発展してしまうかもしれない。
AIが生成した映像や画像の著作権はどのように保護されるのかも論点になる。
自社の広告クリエイティブが他の広告と類似している場合、著作権侵害のリスクも考慮する必要がある。AI製のタレントが商品を「おいしい」と紹介するのは、消費者を欺いているのでは? という倫理的な問題も潜む。
人間のタレントは、自身が推薦できない商品はCM起用を断れるという前提があるからこそ「おいしい」という言葉に説得力があるが、AIタレントは広告主が言いたいことを好きに言わせることができる。
結論として、AIによる広告製作は非常にコストパフォーマンスに優れている反面、過学習の問題や他者の権利侵害、そして自社ブランドの信用低下リスクも併せ持っている点に注意しておきたい。
以上を踏まえると、広告にAIを活用する動きは単なる目新しさだけでなく、実際に認知度やアプリのインストール数増加に寄与する手段ではあるものの、リスクも大きいことが分かる。
さらに、バナー広告のようにキャッチコピーがメインの広告に関しては、まだAIが得意とする分野ではなく、AIを使うことでかえって手間が増えてしまうのが現状だ。従って、広告バナー制作者はAIに「駆逐される」と恐れるのではなく、うまく使役する方向で技術を磨いていくべきだろう。
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