ワーク・エンゲイジメントは全般的に緩やかな低下傾向であったが、会社満足度はどうなっているのであろうか。「働きがい」が低下しているのにあわせて会社満足度も低下しているのであろうか。
それを見たのが図表5である。大企業、中小企業ともに会社満足度は上昇していた。政府の「働き方改革」の影響が職場環境に良い影響を与えているのか、「コロナ禍という厳しい状況の中、安定して働けるのはありがたい」といった意識があるのか、それ以外の要因があるのか分からないが、就業者の会社に対する満足度は上がっている。ただ、ここでも大企業と中小企業の差が大きくなっていることは注目すべきだろう。
会社満足度は上昇傾向にあるのにワーク・エンゲイジメントは低下傾向にあった。企業にとって就業者のワーク・エンゲイジメント低下は看過できない問題である。どのような要因がワーク・エンゲイジメントに影響を与えているのかを、企業規模別に確認しておきたい。先行研究を参考に[注5]、以下を分析の指標として用いた。
※5:久米功一・鶴光太郎・佐野晋平・安井健悟「正社員のワーク・エンゲイジメント」(『ディスカッション・ペーパー』2021年9月、経済産業研究所)(2023年8月11日アクセス)
(1)月あたりの残業時間
(2)職場の雰囲気(「上司でも部下でも、分け隔てなく仲が良い」「職場では、いつも活発な意見交換が行われておりにぎやかだ」)
(3)職務特性(「様々な能力や経験を必要とする仕事である」「仕事の範囲ややり方は、自分で決めることができる」)
(4)上司役割(「上司に仕事上の悩みや不満を聞いてもらっている」「上司からスキルや能力が身につくような仕事を任されている」「上司から、責任のある役割を任せてもらっている」)
(5)職場外の学習(大学・大学院・専門学校、資格取得のための学習、語学学習、NPOやボランティア等の社会活動への参加、勉強会等の主催・運営、研修・セミナー、勉強会等への参加、通信教育・eラーニング、読書、副業・兼業)
その結果を見たのが図表6(大企業)と図表7(中小企業)である。ワーク・エンゲイジメント向上に与える影響力の大きさ(各項目記載の数値の大きさがそれを示している)から第1位から第3位まで順番をつけた。
大企業では「自己裁量」「スキル獲得」「責任ある仕事」、中小企業では「スキル獲得」「自己裁量」「様々な能力・経験」の提供がワーク・エンゲイジメント向上に大きな影響をもつことが分かった。すなわち、大企業と中小企業で共通しているのは、仕事を進めるうえで一定程度の裁量を認めることに加えて、スキル獲得に繋がる仕事を任せることがワーク・エンゲイジメント向上にとって重要ということであった。大企業と中小企業で異なる点としては、大企業では責任のある役割を任せること、中小企業では様々な能力や経験が必要になる高度な仕事を与えることがワーク・エンゲイジメント向上と強く関連していた。
本コラムでは「働く10,000人の就業・成長定点調査」の過去5年間の結果から、民間企業正社員のワーク・エンゲイジメントの変化を企業規模という観点から明らかにしてきた。
本コラムのポイントは、次の通りである。
先述したように、ワーク・エンゲイジメントは「働きがい」のことである。会社満足度が上昇したとしても、「働きがい」を感じない就業者が増えていくことは結果として組織の基盤を掘り崩すことになるだろう。近年のワーク・エンゲイジメントの低下は、会社満足度上昇の陰で、静かに、だが確実に組織を危うくさせているのかもしれない。そうした状況を変えるためにも、上述の施策は意味があるのではないだろうか。
日本社会事業大学、岐阜大学、山梨学院大学の教員を経て、23年4月より現職。大学教員としてはキャリア教育科目の開発・担当、教養教育改革、教員を対象とした研修運営などを担当。研究者としては、主に若者の学校から職業世界への移行、大学教職員や専門学校教員のキャリアに関する調査に関わってきた。
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