リテール大革命

日本のリテールメディアが攻めあぐねる、3つの理由がっかりしないDX 小売業の新時代(4/4 ページ)

» 2023年11月02日 07時00分 公開
[郡司昇ITmedia]
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 さらに、リテールメディアの取り組みを複雑にしている大きな要因として「メーカーと小売企業間の役割分担」の問題が挙げられます。

 伝統的に、小売業者は商品を棚に並べることや、店舗の運営に主眼を置き、商品のブランディングやマーケティング活動はメーカーが行うという役割分担が存在してきました。このため、リテールメディアという新しい形のマーケティング手法を導入する際、双方の役割や責任範囲が明確でないことから、連携の取りづらさや意思疎通の不足が生じやすいのです。

 具体的にいうと、メーカー組織内で生活者への認知を拡大する部署は宣伝部(マーケティング部)です。

 宣伝部は最も大きな認知獲得媒体であるマスメディアを統括する広告代理店がパートナーとなっています。その流れで近年のSNSマーケティングなども広告代理店に依頼することが多いため、大手広告代理店はデジタル部門を作っています。マス広告を打てる規模の大手メーカーの宣伝部が持つ広告予算は大きく、広告代理店から見ると重要顧客です。マス広告にお金を使わない小売企業は広告代理店から見て、直接の顧客ではないため軽視される構造になっています。

 一方、メーカー(特に購買頻度が高い最寄品)にとって最重要な販売チャネルは、小売店などです。小売店舗の棚を獲得するための商談や接待に終始する部署が営業部です。営業部の精鋭は大手小売業のバイヤーとの商談に日参します。メーカー営業部が持っている広告予算はチラシ協賛金程度の少額であり、宣伝部とは比較になりません。彼らの仕事は原価交渉やリベートという実売に関わる交渉であり、その予算を持っているのです。世の中に商品を認知させる予算を持っているわけではありません

 営業部をカスタマーマーケティングとして子会社化している大手メーカーも多いです。ここでいうカスタマーは小売企業です。実店舗でたくさん販売している大手メーカーの直接の顧客は生活者ではなく小売企業なのです。

 小売企業内部での商品部と店舗運営部の距離感は前述した通りです。生活者と向き合っている店舗現場の意見が重視されるのは正しい姿だと筆者は考えます。

メーカーと小売の接点は、メーカー営業部と小売商品部(筆者作成)

日本で成功しない理由(3)前年比発想で自社活用をやり切れない

 多くの企業にとってのリテールメディアは、自社が知ってほしい・買ってほしいものの紹介が本筋になると筆者は考えています。実際に自社商品・サービスの紹介に投資する企業は少ないながら存在します。SPA(製造小売業)のように自社開発商品が中心の企業以外でもメーカー広告を多少入れつつ運営しているのです。

 こういった取り組みをする企業は複数存在します。ところが、その企業の業績が厳しくなって収益目標に届かなかったり、前年比を割り込んだりすると取り組みが一変します。株主へのエクスキューズとして、コスト削減が柱となります。

 必然的に費用対効果が不明瞭であったり、検証できていても維持費に対して(先々ではなく)その時点の成果が出ていないものを予算からカットするという意思決定がなされます。かくして「長い目で育てていく」と言っていたはずの、自社の強みを店頭で紹介するメディアは撤去されます。

リテールメディアが成功する可能性はあるのか

 ここまで日本でリテールメディアが成功しない理由を説明してきました。とはいえ、リテールメディアは新たな収益源としての「大きな可能性」を持っています。特に、生活者のオンラインとオフラインの購買行動が一体化してきている現代において、リテールメディアはその接点としての役割を担うことが期待されます。

 次回は、成功するために必要なことを紹介します。

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