魚澤さんは「ゆるやかなフリーアドレスと内階段の導入により、出会いや会話量が増えただけでなく、業務のスピードアップや質の向上も実感できています」と自信を見せる。
広報担当がメールで受け取った製品資料を基にプレスリリースを作成しようとしていたところ、たまたま内階段で製品担当者と出会い、雑談の中で資料には記載されていない製品のこだわりや時流に合ったアピールポイントが見つかったという事例もあった。
そのほか、連絡を取りたい部署の人に偶然内階段で会い、その場で回答がもらえて助かるというケースや、ある製品のマーケターが近くで仕事をしている違う製品部署のマーケターに相談したことで魅力的なコンセプトが生まれた事例もある。
魚澤さんのもとには、社員から「オフィシャルじゃない意見交換ができた」「同期と久しぶりに気軽に会話ができて、前向きな気持ちになれた」などのポジティブな声が届いている。
本社移転に伴うコミュニケーション活性化施策により、ユニ・チャームのハイブリッドワーク環境はより強化されたように見える。同社はまだ週5日出社が主流だった17年からハイブリッドワーク推進で試行錯誤してきた。現在は週2日リモートワークを基本としている。その背景にはどのような思いがあるのだろうか。
魚澤さんは「当社がハイブリッドワークを進める背景には、社員の成長を求める人事部の戦略があります」と説明する。
「当社には『社員の成長があって会社の成長がある』という考えが根付いています。ハイブリッドワークを推進する背景には、自身が集中して働ける環境を自ら考え、成果に対して責任を持つことで、社員の自立を加速させるという思いがあります」(魚澤さん)
そのため働く時間や場所の多様化に取り組んでおり、社員の出社日もチームでスケジュールを合わせながら各自で決定する仕様にした。
もちろん、今後の課題もある。「慣れ」への懸念だ。現在は、社員が楽しみながら出社できるようコーヒーやお菓子、カフェでの食事メニューにもこだわるなど工夫しているが、いつかこれも当たり前になってしまうかもしれない。
「人(社員)は会社の経営に直結する重要な存在です。コミュニケーション不足は確実に企業力に影響を及ぼします。現状に満足せずに、鮮度をアップデートし続けることが必要です」と意気込む。
部署をまたいだ社員間コミュニケーションのきっかけづくりも、引き続き追求していく。オフィス内でやることは変わらないが、手段は広げていきたいという。
全員が健康でイキイキと働く職場を目指すには、意識せずともさまざまな人とコミュニケーションが取れる仕組みが不可欠だ。業務を前提にした会話とそうでない会話から生まれるモノは全く毛色が変わってくるだろう。何気ない雑談が社員の前向きな気持ちや所属意識を醸成し、それが会社の成長につながっていく――そんな好循環の卵をユニ・チャームは今日も温めている。
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