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日本から「転勤」がなくなるかもしれない、これだけの理由「転勤拒否族」は甘え?(2/3 ページ)

» 2023年11月10日 08時00分 公開
[やつづかえりITmedia]

「転勤拒否族」を批判する人に欠けている視点

 転勤は本人だけでなくその家族に多大な影響を与える。共働き家庭が増え、高齢化で介護を担う働き手も増えた現代では、「家族みんなで引越し」など不可能で、単身赴任を選ぶケースも増えている。

 性別や年齢、障害の有無など職場のダイバーシティーが高まっていくと、どうしても転勤は無理だという人も増えていく。独身の若者など、限られた一部の人に転勤の負荷が偏っていくことも予想される。

 このような状況から、転勤は本当になくせないのかを考えるべき時が来ている。先に挙げた「転勤が必要な理由」もかつては正しかった。しかし時代とともに「それ、転勤じゃなくてもできるよね?」「他の方法を探すべきだよね?」という面が出てきている。

転勤 (写真はイメージ、出所:ゲッティイメージズ)

 まず(1)人材育成のための転勤はどうか。新天地での経験が成長を促すという側面は確かにある。だが「転勤できる人」だけがその恩恵を受ければよいのだろうか? 女性管理職が増えないのは、子育てなどの理由で転勤や長時間労働を受け入れづらいことが一因だという調査結果もある。多様な属性を持った人たちに活躍してもらうためには、転勤が担っていた人材育成の機能を、他の手段で実現する必要がある。

 例えば、転居を伴わない異動や社内プロジェクトチームへの参加、社外でのボランティアや副業など、今の時代はさまざまな「越境経験」の方法がある。そういった経験や成長の機会を社員に提供することを考えるべきだろう。

「不正や癒着防止」 令和の時代でも必要?

 次に(2)不正や癒着防止のための転勤について考えてみよう。これは金融機関における慣行だ。

 かつては金融庁が、職員を定期的にローテーションさせることを推奨する監督指針を示していた。営業担当者が地域の顧客と密接になることで、預かったお金を着服したり取引先と共謀して不正を働いたりすることを防ぐという意図だった。しかし、19年の指針の改定時に、該当部分の記載は削除された。

 むしろこれからの銀行員には、腰を据えて顧客との関係を密にし、地域の経済を活性化させるような働きが求められるようになってきている。担当者がコロコロと変わると、長期的な取り組みも難しくなってしまう。もちろん癒着はいけないが、デジタル化で情報の透明性や正確性を高めるなど、転勤以外でできる防止策もあるはずだ。

 金融機関に限らず日本全体に浸透しているのが、(3)終身雇用制度を維持するための転勤だ。

 新卒で採用した社員が定年退職するまでに30年以上ある。その間に会社の業績や事業内容が大きく変わってもその人を雇い続けられたのは、社員の仕事内容や勤務地を会社命令で変えることができたからだ。

 しかし、今どき「会社の命じるとおりに働いていれば、自動的に給料が上がり、定年まで働けますよ」と約束できるような企業はほとんどない。むしろ「どうやってキャリアアップをするかは自分で考えなさい」と、社員に「自律的なキャリア形成」を促す企業が増えている。それなのに転勤命令には従えというのは、矛盾している。

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