「転勤を断らない社員」だけを採用したい これって問題?Q&A これって違法ですか?

» 2023年10月30日 07時21分 公開
[ほしのあずさITmedia]

Q&A これって違法ですか?

「給与を上げろ」「残業を減らせ」「経費を減らせ」――日々現場と経営の板挟みで悩みが尽きない人事・総務担当者に向けて、リアルな疑問に答えます。回答者は、KKM法律事務所代表の倉重公太朗弁護士。

今回のお悩み

Q: 当社では事業の拡大に伴い、遠方への事業所開設を予定しています。そのため今後は「転勤を受け入れてくれそうな人材」を中心に採用したいのですが、このような採用基準は問題でしょうか?

弁護士の見解は?

答え: 考え直した方が良いでしょう。「転勤したくない求職者」も視野に入れないと人手が足りないからです。

A: 若いうちは身軽なので、採用時に問うと「転勤できる」と言う人も多いかもしれません。しかし、ライフステージの変化によって、価値観は変わります。結婚、出産、介護といったライフイベントはいつ起こるか分からないため「入社時に転勤ができると言っていた」というのは、あてになりません。

 ただ採用の際、求職者に「絶対に住んでいる地域から離れたくないか」と聞くことはあって良いと思います。絶対に離れたくないという人には、転勤のない地域限定正社員を提案しましょう。

転勤は本当に必要?

 そもそも私は、転勤が当たり前の雇用について、考え直す段階にきているのではないかと感じています。

 確かに昭和、平成の雇用では転勤は当たり前でした。このケースのように、転勤できる人だけを採用するという方法も行われていたでしょう。

 ですが令和においては、応募者が殺到するスーパーエリート企業でない限りこの採用は難しいと考えています。少子高齢化で若い労働力が減っている今の時代、「転勤したくない求職者」も労働力として扱わないと人手が足りないからです。

転勤 「転勤を断らなさそうな人を採用する」ってどう?(出典: 写真AC)

 令和において転勤は当たり前ではなく、プレミアムなことになるといいですね。転勤が必要な職種が完全になくなることはないので、転勤をゼロにしろとは言いません。しかし、事業戦略、人事戦略の観点から見て、どこまでの範囲で転勤が必要なのか、一度見つめ直してみてください。

 転勤とは根深い問題で、近年は裁判官ですら転勤が多いことが理由で不人気です。今後も転勤ありきの採用を続けるのか、人を絞って行うのか、また不公平ならないように待遇面はどうするのか――。会社全体で見直しながら、事業戦略と人事戦略を一致させていきましょう。

話を聞いた人:倉重公太朗(くらしげ こうたろう)

慶應義塾大学経済学部卒。KKM法律事務所 代表弁護士。週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング2022」では人事・労務部門1位を獲得。

第一東京弁護士会 労働法制委員会副委員長・労働法基礎研究部会部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)副理事長、日本CSR普及協会理事を務める。著作は30冊を超えるが、最新作は『実務詳解 職業安定法』(弘文堂)。Amazonの著者ページはコチラ

労働審判・仮処分・労働訴訟の係争案件対応、団体交渉(組合・労働委員会対応)、労災対応(行政・被災者対応)を得意分野とする。企業内セミナー、経営者向けセミナー、人事労務担当者・社会保険労務士向けセミナーを多数開催している。


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