「給与を上げろ」「残業を減らせ」「経費を減らせ」――日々現場と経営の板挟みで悩みが尽きない人事・総務担当者に向けて、リアルな疑問に答えます。回答者は、KKM法律事務所代表の倉重公太朗弁護士。
Q: キャリア採用で既に内定を出している求職者がいるのですが、採用方針の変更もあり、後から応募してきた別の人を採用したいと思っています。内定者は現在入社時期などを調整中なのですが、一度出した内定を取り消すことは可能でしょうか?
答え:できません。内定後の取り消しは、解雇にあたります。
A: この話は労働契約が成立する前か後かで大きく変わります。今回の場合は、内定を出した後なので、合理的な理由がない限り取り消しは違法となります。内定を取り消すことは解雇と同じ扱いになるからです。
皆さんは、労働契約が成立するのはいつだと思いますか? 労働契約が成立するのは、「内定」のタイミングとなります。法律の観点から言うと、内定を出したタイミングで『始期付解約権留保付労働契約』が成立しています。従って、内定取り消しは解雇ということになります。
解雇と聞くと重たい気がしますよね。実際、日本では解雇は認められにくい現状があります。経歴にウソがあったり逮捕されたりすれば話は別ですが、今回のケースでは、内定者は何も悪いことをしていないですよね。他にいい人がいるからという理由での取り消しは、あまりにも扱いが軽すぎます。
ちなみに「内々定」という言葉がありますが、これはほぼ決定しているものの、内定は出していない状態です。もし内々定が取り消しになった場合、内定ではないので解雇にはあたりません。しかし「内々定だからいいよね」と雑に対応した結果、損害賠償を命じられた例はあります。
応募者にとって内定、内々定はその後の生活や就職活動に多大な影響を与えます。仮に内々定であったとしても、方針が変わったのであれば丁寧に協議をして、本人の理解、納得を得られるように話をすることは必要ですね。
慶應義塾大学経済学部卒。KKM法律事務所 代表弁護士。週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング2022」では人事・労務部門1位を獲得。
第一東京弁護士会 労働法制委員会副委員長・労働法基礎研究部会部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)副理事長、日本CSR普及協会理事を務める。著作は30冊を超えるが、最新作は『実務詳解 職業安定法』(弘文堂)。Amazonの著者ページはコチラ。
労働審判・仮処分・労働訴訟の係争案件対応、団体交渉(組合・労働委員会対応)、労災対応(行政・被災者対応)を得意分野とする。企業内セミナー、経営者向けセミナー、人事労務担当者・社会保険労務士向けセミナーを多数開催している。
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