利用されない指定席券売機 やっぱり「駅の窓口廃止」は間違っている杉山淳一の「週刊鉄道経済」(6/6 ページ)

» 2023年11月10日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]
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DXの必要性は分かる、しかし技術が追いついていない

 JR東日本は2021年5月に「25年までにみどりの窓口を7割減らす」と発表した。440駅から140駅へ。みどりの窓口を削減する理由は人件費と固定費の削減で、それができる理由は長距離きっぷでオンライン予約やチケットレスが普及しているからだという。先に掲げた図のように、窓口の削減は着実に進み、指定席券売機、話せる指定席券売機の設置が進んでいる。しかし結果として、数少ないみどりの窓口に客が集中して混雑している。

 人材不足で窓口要員を確保しにくいという事情も分かる。しかし現在の指定席券売機、話せる指定席券売機は、窓口を代替するほどの能力を持っていない。理想が先走りすぎて、お客様が置き去りになっている。

 確かに長距離利用客のネット予約やチケットレスは増えた。しかしそれは主に新幹線利用客だと思う。彼らは新幹線停車駅からどうするのか。バスやレンタカーに乗り換えていくのだろう。しかし、鉄道事業の理想としては、新幹線停車駅から在来線へ誘導し、乗客が少ないローカル線の利用率を上げていくことではないか。

 みどりの窓口では乗客が希望し、係員が応え、あるいは係員が提案できた。オンライン予約、指定席券売機、話せる指定席券売機にはその受け皿がない。DXで鉄道は本当に便利になっているだろうか。

 オンライン予約を普及させたいなら、プリントやスマートフォンに表示したQRコードで乗車が完結するような、QRコード対応改札機、QRコード対応検札機が必要になるだろう。話せる指定席券売機は窓口と同じように会話を拾って発券できる技術が必要で、それはAIで可能になるかもしれない。みどりの窓口を削減する前に、完全に代替できるシステムを完成させるべきだ。それまではみどりの窓口を維持、あるいは増やしてほしい。

 もともと私は「人と接するサービスは人がやるべき」と思っている。機械にすべて任せて良いことはない。しかし接客はストレスがたまることも事実。そのためにDXを活用し、業務の時短や負担軽減を図るべきだ。人の負担を減らすことと、人そのものを減らすことは話が違う。DXは顧客と働く人のためにある。技術開発する人、それを採用する人は、現場が見えているだろうか。

 要するに、ちゃんと機能するチケットレスシステム、あるいは簡単に扱える指定席券売機が完成するまで、駅の有人窓口は増やすべきだ。そうしないと、きっぷを買う側にとって「鉄道は面倒くさい乗りもの」という認識が広まり、「最初に選ばれる交通手段」ではなくなってしまうだろう。

【追記】11月10日21時05分

 「話せる指定席券売機」のAI対応版はすでに開発されていた。本記事掲載後、千葉・幕張メッセで開催中の「鉄道技術展」に行ってみたら、「JR情報システム」が「AI自動応対版アシストマルス」を展示していた。現在、大阪駅うめきた地下口で1台が稼働中とのこと。

 デモ機で試してみたところ、大阪から出雲市まで、新幹線「のぞみ」と特急「やくも」の乗継ぎきっぷが購入できた。ただし、少しでも不明瞭な言葉や、余計な言葉を聞き取られると、すぐに人間のオペレーターに切り替わる。AI認識のブラッシュアップに期待したい。

「AI自動応対版アシストマルス」受話器を取って、「出雲市に行きたいです」と話す。日付など項目の変更も言葉で指示できるけれど、タッチパネルを併用した方が確実だ
AIが判断できない言葉がある場合は人間のオペレーターに切り替わる。オペレーターが混雑している場合は、結局ここで待たされる。いかにAIの処理を増やしていくかが課題だ
発券されたきっぷ。デモ機なので発行窓口名が「鉄道技術展」になっていた

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてパソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICETHREETREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。


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