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松尾豊東大教授が語る「生成AIと著作権の現状」 日米欧の違いは?(1/2 ページ)

» 2023年11月11日 08時00分 公開
[河嶌太郎ITmedia]

 日々進化を続ける、ChatGPTに代表される生成AI。米国は数兆円規模で開発予算を投入していて、他国の追随を許さない状況が続いている。日本国内でもNECやソフトバンク、NTTグループなどの多くの企業が生成AIの開発に参入した。

 民間企業の参入が相次ぐ中、大学で生成AIの研究と研究者の育成を最前線で進めているのが、東京大学大学院工学系研究科の松尾豊研究室だ。人工知能の研究・開発を長年続けていて、8月には岸田文雄総理も研究室も訪れた。松尾豊教授は、国の「AI戦略会議」の座長も務める。

 同じく松尾教授が理事長を務めるのが、日本ディープラーニング協会(JDLA)だ。JDLAは、生成AI利用の企業向けガイドラインを策定していたり、G検定やE資格といったAIに関する資格試験を実施したりしている。

 前編【松尾豊東大教授が明かす 日本企業が「ChatGPTでDX」すべき理由】では、「生成AIの現状と活用可能性」「国内外の動きと日本のAI戦略」という2つのテーマについて、「CDLE All Hands 2023」における松尾教授の講演の模様を紹介した。中編では生成AIと著作権におけるルール作りの現状と、日米欧の違いについてお届けする。

日本ディープラーニング協会の松尾豊理事長

欧州「強い規制」、米国「自主規制」 日本はどうする?

 2022年11月30日、ChatGPTが登場した。それからわずか2カ月後の2月3日には自民党に「AIの進化と実装に関するプロジェクトチーム」が立ち上がる。そして4月10日に岸田総理が、ChatGPTの開発・運営をするOpenAI社のサム・アルトマンCEOに面会した。これはG7首脳の中では最も早い面会となった。

 5月7日には総務省が、翌8日には文科省が生成AIの利用に関する方針を表明。11日にAI戦略会議(座長・松尾豊教授)が立ち上がり、議論を開始する。同時に関係省庁連携のためのAI戦略チームも同時に立ち上がった。26日には「AIに関する暫定的な論点整理」が公表。会議立ち上げから15日間でまとめた声明で、行政の動きとしては異例なスピードだった。

 「AIに関する暫定的な論点整理」では、大きく「リスクへの対応」「AIの利用」「AI開発力」の3つがポイントになっている。「リスクへの対応」は個人情報の問題や、セキュリティの問題、またはクリエイターの著作権がどう守られるのかなどさまざまな問題に対応していこうというものだ。

 「AIの利用」は、ChatGPTをうまく活用していくと生産性を上げたり、社会課題を解決できたりする可能性があるものなので、しっかりと使っていこうという内容だった。「AI開発力」は、生成AIは非常に大きなインパクトがあり、国内でもしっかり生成AIの開発をしていかないといけないという主張がある。それに向けてGPU(Graphics Processing Unit)をはじめとする計算資源不足の解決や電力確保、事前学習させるデータ整備をしっかり対策していこうという論点が盛り込まれた。

 4月に開かれたG7広島サミットでは、「広島AIプロセス」を23年末までに立ち上げることを決定した。今後、日本が生成AIに関する世界の標準ルールを取りまとめていくことが期待される。

 生成AIに関する国際的なルール作りに向けた動きが進んでいるものの、その対応は地域によって違う。今の世界の状況を見ると、EUがAIに対して非常に強い規制案を採択している。まだ案ではあるものの、これは世界でも最も厳しい規制を取る立場だ。

 具体的には、例えば生成AIを使った画像などに「AI製」というクレジットを明示させる。同時に、AIが著作権で保護されたデータを取り込んだ場合に、公表を求めるという内容だ。

 今の生成AIは、インターネット上に広くあふれているデータを使って学習している。一つ一つ学習しているデータが、著作権的に保護されたものであるかどうかは気にしていないのが現状だ。松尾教授はこう話す。

 「これが『著作権で保護されたものを取り込んだら公表せよ』となった場合、ほぼイコール『インターネット上のデータを使うな、学習に使うな』と言っているのと等しくなります。もはや『生成AIの事業をするな』と言っているのと近い、かなり強い規制だと言わざるを得ません。もちろん、こうした点をどのように仕組みとして、技術として作っていくかは、非常に重要な課題です」

 一方で米国は対照的だ。バイデン大統領は7月21日にAI7社(Amazon、Anthropic、Google、Inflection、Meta、Microsoft、OpenAI)を呼んで、自主規制のルール作りをすることを約束させた。例えばAIのリスク管理について情報共有をすること。他には生成AIの成果物に電子透かしのシステムを入れて、コンテンツが生成AIによって作られたものかどうかを検知する仕組みを入れる話し合いがされている。

 ただEUと違い、あくまで自主規制であり、法的な拘束力があるわけではない。松尾教授は「逆に言うと、自由にやらせたいから自主規制の形をとっているようだ」と分析する。

バイデン大統領はAI7社(Amazon、Anthropic、Google、Inflection、Meta、Microsoft、OpenAI)を呼んで、自主規制のルール作りをすることを約束させた
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