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松尾豊が語る「和製AIが世界で勝つ」方法 カギを握る企業特化型LLM(2/2 ページ)

» 2023年11月13日 06時00分 公開
[河嶌太郎ITmedia]
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日本のAIは世界とどう戦うべきか

 日本のAIはどう世界と戦っていくべきなのか。松尾教授はこう持論を展開する。

 「最終的には、医療や金融や製造といった巨大産業に貢献する形にしないと、日本は勝ち目がないと思っています。AIの開発は数兆円の投資の戦いになります。Googleでは毎年、数十兆円の売上高があるので、数兆円規模の投資ができるわけです。これと同じような体制を日本で作るには、医療、金融、製造といった巨大な分野に、きちんと付加価値を提供するのが大事です。コストを削減したり新しいことを可能にしたりして、投資のサイクルを回すようにしないといけないのです」

 そのために日本産の特定領域のLLMを作り、医療、金融、製造など「業界ごとのLLM活用の取り組みが必要」だという。

生成AIを活用したDXの推進が必要

 AIをめぐる日本の可能性について、松尾教授はこうまとめる。まず、現行のAI戦略の部分では、G7の「広島AIプロセス」をしっかり進め、同時に現行法の周知も徹底していくことが重要だという。

 AIにおける計算資源のデータといったインフラ整備も欠かせない。そして「次にやらないといけない部分」として挙げるのが、生成AIを活用したDXの推進だ。これは大企業や中小企業だけでなく、行政や学校教育機関などの組織でも必要だという。人材育成における活用も不可欠だ。

 「最終的に作らなければならない形」として挙げたのが、医療、金融、製造を中心とした国内の巨大産業に生成AIを活用することだ。これにより数十兆円規模の産業に生成AIが貢献する形になる。そして「さらなる発展」として、アジアからグローバルに展開していく点を挙げた。各産業のグローバル展開を後押ししながら、日本のAI産業自体も発展していく未来を、松尾教授は思い描く。

 ここまでの日本の生成AIを巡る動きについて、松尾教授は「日本全体で非常にスピード感を持って推進できていて、素晴らしい」と評価する。

 「問題は、この次のステップに進んでいけるかどうかですね。既に一部の企業では、『社内での生成AIの活用はリスクがあるんじゃないか?』というような話もあります。今は、生成AIが分かりやすさで多くの人に浸透していますが、これがDXの話になったりすると、経営層が理解できない領域に入ってしまい、一気にスピードが落ちる可能性もあります。そこをどう乗り越えるかが、課題だと思います」(松尾教授)

 汎用の生成AI開発では、予算規模や開発時期の面からも、日本が同じ土俵で勝負することは難しい。ところが、バーティカルな領域特化したLLMであれば、日本企業にも勝機がある。いずれにしても、これを後押しするのが各企業の生成AIによるDX推進だ。日本が世界で最も生成AIを使いこなせる国になれば、ChatGPTへの勝ち筋が見えるだろう。

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