攻める総務

本社を“大規模改装”した日本ロレアル 出社率上昇で生じた課題は?ハイブリッドワークの挑戦と舞台裏(1/2 ページ)

» 2023年11月14日 18時05分 公開
[今野大一ITmedia]

 リモートと出社を併用するハイブリッドワークを推し進める企業が増えている。「誰がどこにいるのか分からない」「勤怠やタスクの管理がかえって煩雑になる」といったデメリットに、企業はどう対応すべきか。

 日本ロレアルは2022年10月、新しいオフィス「ビューティーバレー」に“大規模改装”した。同オフィスはハイブリッド勤務を前提としていて、地球環境と社員の持続可能性に配慮している。創意と工夫を凝らしたオフィスを表彰する日経ニューオフィス賞では、ニューオフィス推進賞<クリエイティブ・オフィス賞>を受賞した。

 同社で広報・渉外本部長を務める七尾藍佳さんに、現在の課題を聞く。

日本ロレアルのオフィス(以下、同社提供)

出社率の理想は60%前後 出社率上昇の課題

――出社とリモートワークの比率を教えてください。

 22年10月にハイブリッド勤務に適した環境を完備した新しいオフィスへと改装してオープンしました。それと同時に、週2日を目安に1カ月10日を上限として在宅勤務の取得を可能にしています。

 一方、消費者の皆さまの最新のニーズや、世の中のトレンドを敏感に察知し、「世界をつき動かす美」を創造することをパーパスに掲げているロレアルグループの働き方としては、実物に触れることの重要性に加え、やはり対面環境における「偶然の出会い」や「シナジー」が必要不可欠ということもあり、理想値としては出社率は60%前後だと考えています。

 おかげさまで在宅・オフィス勤務をバランスよく取り込むハイブリッド型勤務が定着しつつあり、23年に入ってからは祝日などを除き、ほぼ60%に近い状態で推移しています。

――リモートワークを取り入れた後に生じた課題はどんなものでしょうか?

 ロレアルグループは「ひと」を重要な軸としています。固有の社風として、社員一人一人が自らの力で人間関係を構築し、部門や所属を超えた人との出会いや対話を通して、ビジネスを動かしていくことが期待されます。

 このため、リモート環境になると、特にコロナ禍の完全リモート時に入社した社員は、自律的に部門を超えた社内の人脈を構築する環境がなく、ロレアル本来の働き方の実現に困難を感じるケースが多くみられました。

 また、人々の心を動かすビジュアルの作成や、アイデアの創出という「美」の事業に必要な「会話・対話」は、やはり対面でないと本来の輝きを失ってしまい「ときめき」や「わくわく」も減ってしまいます。何よりも「つながり・縁」を大事にするロレアルにとって、フィジカルな人の交流のない完全リモートワークの状態は、緊急時の対応として機能はしたものの、本来のコアな事業展開では多くの困難を伴っていました。

――昨今の出社率上昇に伴い生じた課題は?

 主にオペレーショナルな課題です。以上の通り、人と人との出会いを大事にするロレアルグループとしては、会社に実際に来ていただくことは喜ばしいものの、オフィスの環境も新しく気持ちの良いものとなり「会社で働いた方が効率もいい、人とも会えるし、もっと会社に行きたい」という社員も多く、思った以上に出社人数が多い日が出てくるようになりました。

 ハイブリッド環境対応で、フリーアドレス制を採用したので、出社人数が想定を超えた日は、モニターのある席がすべて埋まっていて、結局、帰宅して在宅で仕事をした事例なども出ていて、改善に努めているところです。

 グローバル企業であることからも、もともとオンライン会議が多く、隣の席にいる人のオンライン会議の声が気になって集中できないこと、会議室やブースが足りない、といったハイブリッド環境特有の問題点も確認しています。

――その課題を受けて、どのようにオフィスをリニューアル・工夫しましたか?

 モニターのある席を増やす、静かに仕事をする人のためのクワイエットエリアを設けた上で、お互いの状況と働き方を尊重するように促しています。会議室不足に関しては、フリースペースの活用を促進、工夫することによって、かなり解消できるものと考えています。

――オフィスの一押しポイントは何でしょうか?

 コロナ後の多様な働き方に対応するため、全ての会議室にリモート会議システムを完備しました。個室会議ブースも豊富に用意する一方で、実際に人と人が対面で出会い、意見を交わすことによってクリエイティビティやイノベーションが創出されることを重視しています。そこで協働スペースがオフィススペース全体の60%を占める設計としました。

 ロレアルグループが創り出す美に囲まれ、インスピレーションを生む空間とするために、回廊にブランドの製品とビジュアルを取り込み、応接スペースには製品を展示してあります。

 ロレアルのパーパスを随所で意識できるデザインやビジュアル、デジタルサイネージをカフェや応接エリア、コピー機エリアなどに設置しました。サステナビリティや多様性への取り組みを伝える動画も随時、上映しています。

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