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ソフトバンクG、「AIへの戦略投資」へ アーム上場で手元流動性は高水準1.4兆円の赤字

» 2023年11月16日 06時00分 公開
[田中圭太郎ITmedia]

 ソフトバンクグループ(SBG)は11月9日、2023年9月中間決算(国際会計基準)の純損益が1兆4087億円の赤字だったと発表した。前年同期の1291億円の赤字から拡大し、中間決算としては過去最大の赤字だ。一方、後藤芳光CFOは「AIへの戦略投資」を実現していくとした。傘下の半導体設計会社である英アームが9月14日に上場したことなどを受けて、手元流動性は5.1兆円と手厚い。

ソフトバンクグループの後藤芳光CFO(撮影:武田信晃)

WeWorkの経営破綻をどう総括?

 決算説明会では、後藤CFOが説明にあたった。連結中間決算は、最終損益が1兆4087億円の赤字となった。売上高が3兆2271億円で前年同期比446億円増となった一方、投資損益で9636億円の赤字、税引前利益で9074億円の赤字を計上した。

 投資損益が赤字となったのは、持株会社投資事業からの投資損失4135億円と、AI関連の有望企業に出資するソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)事業からの投資損失5833億円が響いている。

 持株会社投資事業については、投資の未実現評価損失が3645億円、投資に係るデリバティブ関連損失が665億円計上された。

 ただ、SVFの前年上期の投資損失4兆3535億円に比べると、投資損失は5833億円と大きく減少している。後藤CFOは「SVFのめざましい改善を、この上期で見ていくとご理解いただけると思う」と理解を求めた。

 また税引前利益は、前年同期の2926億円の黒字から9074億円の赤字と、約1.2兆円も悪化した。SVF事業による税引前利益と純利益の悪化要因について、次のように明かす。

 「(SVF事業の悪化の)大きな部分は、SVFの外部投資家持分の変動によるものです。昨年は実は1兆円を超えるプラスの影響が外部投資家持ち分としてありましたが、今年は2263億円のマイナスです。ここが大きな影響を与えました」(後藤CFO)

ソフトバンクグループ(SBG)の孫正義会長兼社長(撮影:河嶌太郎)

 投資先では米WeWorkが11月6日、米連邦破産法第11条(チャプター11、日本の民事再生法にあたる)の適用を米裁判所に申請。その影響で23年上期では2343億円の損失を計上した。

 米WeWorkの経営破綻が、SBGの経営にどう影響するのか問われると、後藤CFOは以下のように回答した。

 「まずは非常に残念に思いますし、会社としてはこの結果を真摯に受け止めて、今後の投資活動に生かしていかなければいけない。投資の意思決定にわれわれとしてどういう過ちがあったのか。改善していく点はどういうことなのかということを考える、大変大きな宿題を与えられました。

 一方で、会計的にはこれまで、価値がどんどん減じていくことを各クオーターレベルでしっかり認識しながら保守的に評価をしていますので、この時点でさらなる大きな会計上の変化が見られるわけではありません」

 米WeWorkへの投資は孫正義会長兼社長の肝いりだった。孫会長の経営責任については次のように述べた。

 「CEOとして全ての経営に責任を持つという考え方がもちろんある中で、このWeWorkの件は彼も意思決定に入っていますが、これは組織として認識すべきテーマだと思います。むしろ、この経験を生かして、さらにSVFの成功に向けて全力を尽くしていくことが重要だろうと思います。

 また、彼がSBG全体の価値向上のために新機軸を打ち出していくこと、そのことに徹底的に取り組んでもらうことの方が、われわれのステークホルダーにとっては重要な考え方だと理解しています」

 孫氏の「目利き力」を疑う声についてコメントを求められると「SVFでの投資クライテリア(評価基準)の見直しなどを行い、一面的な評価のみで投資が行われないような仕組みを、毎年ブラッシュアップしている状況」だと話し、投資基準を改善している点を強調した。

アームの上場などで手元資産は増加

 決算説明会でプラスの要素として前面に打ち出したのは、英アームが9月14日に米ナスダック市場に新規上場したことだ。SBGは100%子会社のアームの株式のうち10%を売り出し、7451億円のキャッシュを得た。

 アーム投資の実績を見ると、投資が株式価値2.3兆円と借入1兆円の合計3.3兆円だったのに対し、リターンは株式価値が7.5兆円に膨らみ8.5兆円になっている。投下資本倍率の株式MOICは3.2倍となった。後藤CFOは3.3兆円を投資した16年時点を次のように振り返る。

 「まあまあの金額なので、財務を預かる立場からドキドキはしましたけど、その時点でもこの会社の独占的な強みが良く理解できていましたので、投資については一致団結して進めようという議論を短期間で仕上げたことを良く覚えています」

 その上で、アリババやスプリントなど過去の大型投資案件と比較しても、アームの上場は「遜色ない投資パフォーマンスを今の時点で出してくれている」と評価した。

トラックレコード(以下、決算資料より)

 同社はSBGの買収後も順調に業績を伸ばしている。アームのチップはモバイルで99%のシェアを誇り、20年から22年にかけてクラウド(7%→10%)やオートモーティブ(33%→41%)、IoTの分野(58%→65%)でもシェアを伸ばした。最近ではさまざまな業界のリーダー企業が同社のチップを活用している状況だ。

 例えばグーグルの最新スマートフォン「Pixel 8」は、アームの最新世代テクノロジー「Armv9」をベースにしている。NVIDIAはアームベースの「GH200 Grace Hopper Superchip」第2世代を発表した。ルネサスエレクトロニクスは自動運転向けの次世代チップに、アームテクノロジーを採用している。

業界のリーダーが、アームチップを採用

 アームの上場後初の四半期は8億600万ドル(約1200億円)と、過去最高の売上高を記録した。今後もデータセンターやAIに必要な半導体需要が追い風になる見通しだ。

 アームの上場に伴う会計処理では、売却益相当額についてはアームがSBGの子会社であることからグループ内取引として消去されるため、連結損益計算書に反映されていない。一方バランスシートには、売却の手取金7451億円がキャッシュで載った。

 SBGが企業価値の重要指標にしている時価純資産のNAV(Net Asset Value)は16.4兆円で、第1四半期よりも約1兆円増加した。純負債と保有株式価値の割合比率を示すLTV(Loan To Value:純負債/保有株式)は10.6%と安全なレベルを維持し、手元の現金を示す手元流動性は5.1兆円と手厚い状態が続いている。

 アームの上場が、これらの指標にもプラスの影響を及ぼした形だ。後藤CFOは「重要指標の安全性という観点からは、きわめて健康な状況がこのクオーターも続いている」と強調した。

AIへの投資はSBGの投資戦略

 SBGとSVFを合わせた投資額は、前年度に比べて2倍以上のペースで増えている。特に増加したのが、SBGによる投資額だ。後藤CFOは「SVF中心に投資するのが基本」としながらも、上期でSBGによる投資が多かったのは戦略上の理由と説明した。

 「(SBGによる投資は)AI投資、戦略投資そのものです。本質的な世の中のAI化の中で、来たるべきサービスやビジネスモデルを考えていく上で、重要なパーツとして機能していく可能性が高いものは、まずはSBG単体で持っておこうと考えています。そういう意味で1〜2クオーターは、SBGの自己勘定による投資が大きくなった期かなと思っています」

 SBGでは特に生成AIの成長はさらにスピードを速め、現在の医師免許試験合格レベルの「GPT-4」から10年以内に10倍(AGI)、20年以内には1万倍のレベル(ASI)に発達し、全産業を変革していくと想定している。SBGは「ソフトバンクを世界で最もAIを活用するグループにしたい」と掲げ、今後もそのための投資を進めていく方針だ。

米OpenAIのサム・アルトマンCEO(撮影:武田信晃)

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