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宝塚パワハラ事件 経営者の醜い責任逃れは、なぜなくならないのか河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(1/3 ページ)

» 2023年11月24日 07時00分 公開
[河合薫ITmedia]

 「確認できなかった」「知らなかった」「現場に任せてあった」「企業体質の問題ではない」「組織的な不正ではない」──。

 これらは企業の不祥事が起こるたびに、繰り返されてきた経営者の言葉です。とりわけパワハラやセクハラといった、“外の目”が入らない内部の問題は「それ逆効果でしょ?」と突っ込まずにはいられないほどの無責任さを貫きます。

 宝塚歌劇団の経営幹部が11月14日に行った記者会見は、その典型でした。

宝塚大劇場(画像提供:ゲッティイメージズ)

 「いじめやハラスメントは確認できなかった」が、「稽古や新人公演のまとめ役としての役割を担う中での長時間にわたる活動はあった」「上級生からの指導もあり、強い心理的負荷がかかっていた可能性は否定できない」と説明したのです。

パワハラ・セクハラはこうして消されてきた

 宝塚の会見や報告書に関する問題点は別のコラムで書いたのでここでは掘り下げませんが(日経ビジネスの筆者コラム)、2022年に明らかになった元女性自衛官へのセクハラ(性暴力)事件でも同様の事態が起きていました。

 当初自衛隊は「セクハラを見たという証言が得られなかった」「隊員たちにはかん口令が敷かれていた」「事実関係が確認できなかった」と隠蔽(いんぺい)がうかがわれる対応を取り続けたのです。

 19年1月、山口県宇部市の宇部中央消防署副士長が、上司のパワハラや組織の悪弊を告発する遺書を残して自殺した際も、弁護士3人による外部調査委員会がまとめた報告書で、自殺の原因は「職場に抗議の意を示すため」と結論付け、パワハラの存在を認めませんでした。

 さらに同年6月には、佐川急便の物流配送営業所の男性営業係長が、営業所で自殺。社員が亡くなる2カ月前に、見かねた同僚が「2人の課長の行為はパワーハラスメントに該当するのではないか」と内部通報していたにもかかわらず、「パワハラは確認できない」としていました。

 この問題では、別の部署の管理職からみんなの前で朝礼で叱責(しっせき)される、「なめ切っている」「うそつき野郎はあぶりだすからな!」などのメッセージが送られてくる、直属の上司から「うそつくやつとは一緒に仕事できねえんだよ」と言われ、机の前に立たされて40分以上叱責を受ける──など、信じがたい行為を2人の課長が行っていたという事実を、他の社員たちも目撃していました。それなのに、内部通報を受けた同社の管理部門は「その2人の課長に」ヒアリングをしただけだったことも分かっています。

 本来、組織で権力を持つ人には働く人を守る義務があるのに、お偉い人たちの辞書には「義務」もなければ「責任」もない。権力や権威を自己保身に使い、責任逃れするためにはなんだってします。「なんだって」です。

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