店頭から「天然水 ホット」の姿が消えて、8年の月日が経過した。他の商品を見ると、残念ながら撤退に追い込まれたものの、復活したケースもある。しかし、いずれもアレンジなどを加えていることが多い。例えば「味をこのようにした」とか「生まれ変わった」といったフレーズで再チャレンジしているが、今回のケースは「お湯→お湯」である。
ほぼ同じ商品にもかかわらず、なぜアサヒ飲料は「白湯」を販売することになったのか。鈴木さんは会社の人たちを説得するために、さまざまなデータに着目した(※)。例えば、白湯の飲料率である。複数の調査結果をもとに推計したところ、2009年は11.8%だったが、22年は61.0%に。
筆者は自宅でも水を温めて飲む習慣がないので、この数字にはちょっとびっくりした。13年の間に、5倍ほど伸びているのかと。この背景に何があるのかちょっと調べたところ、2つの理由が浮かんできた。
1つは、健康志向の高まりである。新型コロナの感染が広がったことで、健康を意識する人が増えた。また、自宅で過ごす時間が長くなったことで、水を温めて飲む人が増えたことも大きい。
もう1つは、ミネラルウオーターの普及が挙げられる。「いやいや、ミネラルウオーターなんて10年以上前から売っているでしょ。白湯を飲む人が増えたことと関係ないよ」と突っ込みを入れたくなった人もいるかもしれないが、データをじっくり見ていただきたい。日本ミネラルウオーター協会の数字を見ると、09年の国内生産(数量)は209万kl(キロリットル)だったが、22年は446万klに。市場は2倍以上、伸びていることになる。
さらに歴史をさかのぼって、この20年ほどのデータを見ても、ほぼ右肩上がりで伸びている。となれば、今後も伸びるかもしれない。となれば、消費者はこれまでとは「ちょっと違うモノ」を飲みたいと思うかもしれない。となれば、白湯が売れるかもしれない。商品化に向かって一歩前進といった中で、データを集めていた鈴木さんは、白湯を飲んでいる人の「不満」にも着目した(※)。
「飲みたいときにすぐに用意できない」(27.4%)と答えた人が最も多く、次いで「適湯に調節するのが難しい、大変」(24.7%)。自宅で過ごす時間が長ければ、水を沸かすのはそれほど面倒に感じない。しかし、コロナの勢いが落ち着いて、会社に出勤する人が増えてくればどうなるのか。
会社に出勤するまでの時間を逆算すると、水を沸かす時間が「足りなく」なってしまう。であれば、外出先で購入したいという人が増えてくるのではないか。このほかにもお客の声などを参考にして、「このタイミングであれば白湯は売れるのではないか」という仮説を立て、商品化に踏み切ったのだ。
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